食品衛生法改正による「漬物の危機」:開業や事業継続に必要なこと

雑記
雑記

食品衛生法の改正(2021年6月1日施行)による経過措置期間が、2024年5月31日に終了しました。

この改正により、新たに営業許可の対象業種となった

  • 水産製品製造業
  • 液卵製造業
  • 漬物製造業
  • 食品の小分け業

などのうち

  • 漬物製造業

について多くの報道があり、食品製造業の事業継続の難しさを改めて感じました。

「漬物の危機」報道

このたびの報道は、食品衛生法の改正により、漬物製造業が、新たに営業許可を必要とする業種となったことに端を発します。

これにより、設備の改修等が必要となり、資金面や高齢化を理由に、生産を終了する事業者が増えているそうです。

岡山の道の駅では漬物が消え

漬物製造業の許可をとらなければいけないので、(生産者の)皆さん、そこまでお金をかけてできないということでゼロに近い状態

OHK岡山放送:農家手作りの漬物が”道の駅から消えた”生産者たちの販売断念相次ぐ理由は…6月の法改正【岡山】

広島では歴史ある漬物店が閉店し

県内に21ある道の駅のうち少なくとも17施設で食品衛生法の改正による出荷数の減少が起きていました。
特に個人の出荷がゼロになった道の駅も4つもあり、県内全体にも影響が広がっている形です。

TSSテレビ新広島:昔ながらの手づくりの漬物がなくなる 高齢夫婦が最後の漬け込み 食衛法改正で60年の味とお別れ 広島

生産者の減少が相次いでいるようです。

福岡では

漬物を製造していることを届け出ているのは4461件。そのうち、営業許可を取っているのは、わずか674件となっています。

FBS福岡放送:【目前】手作りの漬物が消滅の危機? 6月から許可制に 79歳のベテランは販売を断念 県内の漬物製造4461件→許可を取ったのは674件のみ 福岡

という衝撃の数字もありました。

一方で、熊本では

県内にある道の駅すべてに問い合わせたところ、回答のあった33カ所のうち「食品衛生法の改正の影響で生産者が1人以上減る」と答えたところはわずか5カ所、と意外と少数だったんです。

TKUテレビ熊本:手作り漬物がピンチ 6月からの食品衛生法改正で生産者たちは【熊本】

と、逆の数字が出ています。

その理由は

熊本県の場合、もともと漬物の製造業者は県の条例で許可を取って製造していた。
一応の製造所は皆さん持っているので大規模な改修というところまでは必要ないということで、大きな混乱は起きていないと聞いている

TKUテレビ熊本:手作り漬物がピンチ 6月からの食品衛生法改正で生産者たちは【熊本】

とのことで、地域によっては、今回の改正による影響がない(または少ない)場所もあるようです。

これは、裏を返せば、過去にその地域だけで、この営業許可や設備投資に関する問題が起こっていたということです。

それを乗り越えてきた地域や事業者だから、今回に限っては影響がなかっただけだとも言えますね。

また、秋田では

横手市は昨年3月、自前で加工施設を持つことが難しい人や、漬物作りを始める人を対象に、山内地区に共同の加工場を整備した。

(略)

また、同市は昨年度、県と共同で行った上限1000万円の設備改修費の補助事業を終了させたが、今年度は市単独で上限40万円を補助する事業を継続。

読売新聞オンライン:秋田:改正食品衛生法猶予終了 漬物生産者の引退懸念 高齢化、加工場整備負担に

とのことで、設備と資金の両面で、自治体が力強く支援している地域がありました。

高額な補助金はもちろん有難いですが、「お金は出すから自分で何とかしろ」というだけでなく、共同の設備を用意するところまで支援の手を伸ばしているところに、自治体の「事業を継続してほしい」という強い気持ちが感じられます。

同じく静岡でも、補助金に加えて

改修が難しい団体や、規模の小さな生産者の支援のため、JAが改正食品衛生法の基準に適応した共同の加工センターを整備するなどの支援をしている

テレ朝news:「漬物」ルール厳格化で廃業の危機 集団食中毒を機に…食品衛生法改正の背景

とのことで、共同の設備を用意して支援する取り組みは、複数の地域で行われているようです。

そして福島には

今は漬物が生きがい。食べてくれる人のためにもやめらんねえ

福島民報:衛生基準厳格化に「諦めたくなかった」 福島県いわき市の83歳女性が私財投じ漬物作り・販売継続

という、めちゃくちゃかっこいい方がいらっしゃいました。

自己資金で自宅を改修し、何度も保健所に通って営業許可を取得したそうです。

  • 生きがいだからやめられない

このひと言に尽きますね。

食品製造業に必要なこと

このたびの報道により、食品製造業の事業継続や開業には

  • 資金(設備投資)
  • 地域・立地条件
  • ライフステージ

が、非常に大きな影響を及ぼすということを、改めて感じました。

食品の販売や飲食店の経営をするとなると、他業種に比べ、多額の設備投資が必要です。

今回の漬物製造業に関する放送や記事でも、たいてい

  • 設備の改修費用
  • 補助金

といったお金の話から始まります。

補助金を受けられる場合でも、もちろんそれだけでは足りませんので、自己資金が必要です。

ただ、資金面に限って言えば、融資を受けたり、最近ではクラウドファンディングに挑戦したりと、策はあります。

融資が受けられることになった場合は、銀行(貸手)が返済できる見込みがあると判断したということですし、事業に借入はつきものです。

また、クラウドファンディングは宣伝にもなりますし、予想を上回る支援が受けられることもありますよね。

でも、食品製造業での開業を志している場合

希望の地域があるのですが、なかなか良い場所が見つかりません。

とか

子どもがまだ小さくて、一日中働くのは難しいです。

といった、立地条件やライフステージによる問題に直面することもあります。

まだ会社は辞めたくないんですよね…。

ということもありますよね。

副業をする方も増えていますが、実店舗の運営を始めるとなると、さすがに片手間では無理があります。

今回の漬物製造業でも

  • 高齢だから

という理由で、引退を決められた方が多かったようです。

もしかしたら資金的には十分余裕があったけれど、自宅を改修したり、別の物件を探したり、そこまでしてあと何年できるのかと考えてしまったのかもしれません。

また、上述のように、地域によって影響はさまざまでした。

強力な支援をしている地域で、継続することを選ぶことができた方も、他の地域であれば断念されていたかもしれません。

逆に、廃業を決断された方の中には、別の地域なら、共同設備を利用して、続けることができた方もいるかもしれません。

ともすれば、もう少し待てば、近くに共同設備ができて、再開できる可能性もあります。

県の条例等により過去に生産を終了してしまった方も、今回のことで共同設備が増えれば、どこかで再開できるかもしれません。

でも漬物って、地元の農作物を使ったものだったり、漬物自体がその場所の特産品だったりしますよね。

食品に限らず、店舗運営をする場合は、地域や立地に譲れない条件があることが多いです。

近隣の飲食店が立ち並ぶ地域でも、短期間でコロコロとお店が入れ替わる鬼門のような場所があるかと思えば、そのすぐそばで何十年も変わらず営業を続けているお店があったりして、場所選びの大切さと難しさを痛感します。

以前、食品ではありませんが、とある店舗の開店準備をされている方がいらっしゃいました。

立地条件に強いこだわりがあり、希望通りの物件が長期間見つからない状況でした。

そこで、接客の勘を維持したいという思いもあり、古巣の会社の店舗でアルバイトをしながら、物件探しを続けることにしたそうです。

もちろん会社には事情をすべて話し、会社側も同業の店舗運営のプロですから、希望のその場所で物件が見つかりにくいことはわかっています。

早く見つかるといいね、見つかったら辞めていいからね、と全力応援の姿勢ですが、人手不足だったこともあり、経験者がしばらく居てくれると大助かりという状況でした。

ところが、勤務を始めて1か月もしないうちに、あんなに長い間見つからなかった希望の物件が見つかったのです。

すぐに前金を払って契約し、家賃も払い始めることになりました。

ご本人は、申し訳ないのでもう少しアルバイトを続ける意向でしたが、会社側が、すぐに始めないともったいないと背中を押してくれて、めでたく開店することができたのでした。

タイミングって本当にわかりませんよね。

「そのとき」が来たときに、すぐに動くことができたことが勝因でした。

出産のために会社を退職され、お子さんが小さい頃に夢を抱き、そこから少しずつ準備を始めて、お子さんが大きくなって

さあやるぞ!

となったときには、物件以外はすべて準備万端の状態でした。

立地条件やライフステージによる壁は、自分の意欲だけではどうにもならないこともあります。

絶好の機会が訪れたときに備えて、少しずつでいいので準備を進めておけるといいですね。

製造販売以外のこと

食品の製造を生業とする方は

  • 製造した食品を販売すること

以外にも、できることがたくさんあります。

一例として、料理教室は

  • 料理の作り方を教えるだけ

ということなら、営業許可は不要だそうです。

今回の改正で、漬物製造業の生産を終了された方でしたら

  • 漬物の作り方を教える

ということを、これまでもされたことがあるのではないでしょうか。

オンラインレッスンやYouTubeでもいいですし、ブログやKindleでレシピを紹介したりするのもいいかもしれません。

ご自身でできそうなら挑戦してみてほしいですし、難しそうなら、観光所や道の駅などのYouTubeに出演したり、ホームページに掲載してもらったりするという方法も考えられますね。

もうのんびり隠居生活がしたいということなら、ご自宅でお子さんやお孫さんに、作り方を教えてあげるというのはいかがでしょうか。

もしかしたら、お孫さんが

漬物製造業で起業する!

と言い出すかもしれません。

ご家族でなくても、これから漬物製造業を始めたいという若い方の、アドバイザーのようなことをするのも面白そうですね。

同じ味を習得するのはなかなか難しいと思いますが、きっと周囲の方も、伝統を承継してほしいと願っていると思います。

製造販売だけが事業ではありませんし、これから始めたいという方も同じです。

開業準備として、YouTube、ブログ、Kindleなどに挑戦してみるのもいいですね。

おわりに

食品衛生法の改正により、新たに営業許可の対象業種となった

  • 漬物製造業

に関する報道を紹介するとともに、食品製造業に影響を及ぼす

  • 資金(設備投資)
  • 地域・立地条件
  • ライフステージ

について検討しました。

合わせて

  • 製造販売以外にできること

として、料理教室やYouTube、ブログやKindleの執筆などをおすすめしました。

福島の方のように、パワフルに続けられている姿を目にすると、こちらも元気モリモリやる気満々になりますが、生きがいややりがいは人それぞれです。

引退された方も、これから始めたいという方も、そのときどきのご自身の状況に合わせて、無理なく楽しみながらできることを、少しずつ試してみて頂ければと思います。

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