ひとりで小さな会社を複数経営していたり、ご家族で複数の会社を持ち合っていたり、という方は意外と多いのではないでしょうか。
これらのうち、経営状態のあまりよくない会社を廃業(解散)、ということもありますよね。
そんなときに忘れてはならないのが、欠損金の引継ぎです。
完全支配関係の確認とともに事例をみていきましょう。
欠損金の引継ぎ
事例
AさんとBさんは兄弟で会社を経営しています。
E社の経営状態があまりよくないので、解散することにしました。
完全支配関係
欠損金の引継ぎができるのは、完全支配関係がある場合です。
わかりにくいので例をみてみましょう。
まずはいちばん簡単なパターンから。
甲社と乙社との間に完全支配関係があります。
では、こちらはいかがでしょうか。
各社間に完全支配関係があります。
もちろんこういう場合も。
各社間に完全支配関係があります。
では、事例の場合はどうでしょうか。
あれ?C社とD社とE社は「すべて」(100%)にならなくない??
そうなんです。D社とE社が少しずつ持ち合いっこをしているので、どこか1社がすべて(100%)を保有する関係にはなっていませんね。
「一の者」は1人または1社とは限りません。親族などはまとめて「一の者」になります。
事例のAさんとBさんは兄弟ですので2人で「一の者」です。
したがってAさんとBさん(=「一の者」)とC社には、完全支配関係があります。
事例の法人間(C社・D社・E社)の資本関係は、完全支配関係の意義にあてはまらないようにみえます。
では、C社とD社とE社の間には完全支配関係はないのでしょうか。
国税庁の質疑応答事例によると、事例の関係は「資本関係がグループ内で完結している場合」に該当します。
資本関係がグループ内で完結している場合の完全支配関係について
【照会要旨】
次の保有関係図のように子会社間(B、C)で発行済株式の一部を相互に持ち合っている場合には、親会社Aと子会社Bの間、親会社Aと子会社Cの間及び子会社BとCの間に完全支配関係はないものと考えてよろしいでしょうか。【保有関係図】
【回答要旨】
親会社Aと子会社Bの間、親会社Aと子会社Cの間及び子会社BとCの間には、それぞれ完全支配関係があることとなります。(理由)
~略~
国税庁 質疑応答事例
グループ法人税制の趣旨は、複数の法人であっても経営は一体的に行われているという実態を考慮することです。そして、その状態をあらわすものとして完全支配関係という言葉が定義されています。
したがって、事例のように、グループ内ですべての株式を持ち合っている場合にも、各社間に完全支配関係があるといえます。
このような関係を「グループ内で資本関係が完結している」という言い方をします。
引継ぎ金額
では実際に、どの会社がいくら引き継ぐことができるのでしょうか。
引き継ぐことができる金額は、持株割合で決まります。
C社とD社は業績好調で黒字続きです。欠損金があると助かりますね。
ちなみに、大赤字の会社を買ってきてすぐに解散すればいいのでは?というような、ずるいことはできません。
欠損金の引継ぎには、本当にグループとして一体経営してきた会社なのかどうかを判定する引継制限の規定があります。欠損金目的の買収や合併はできません。
長年グループとして一緒に経営してきた会社だからこそ、やむなく解散する場合にはその欠損金を引き継ぐことができる、という制度です。
まとめ
解散の事例とともに、完全支配関係と欠損金の引継ぎについてお話ししてきました。
グループ法人税制というと、寄付金や配当金、譲渡損益の規定がまず頭に浮かびますが、解散や欠損金とも結びつきが強い制度です。
解散や合併等を検討している場合には、完全支配関係について整理しておきましょう。