オリンピックを機に
に興味を持ちました。
特定の国や地域に興味を持つと、まずは歴史書や地誌などを読んでみたくなりますが
からも学ぶことができます。
北欧ミステリーを探せ
子どもの頃からミステリーが好きで
も、いくつか読んだことがあります。
有名どころだと
は、スウェーデンの小説で、刊行当時大ベストセラーでした。
現在進行形だと
は、デンマークの小説で、いつも次作を楽しみにしています。
今回は、ノルウェーに所縁のあるものを読みたいので
の作品を探してみたところ
という小説を見つけました。
ノルウェーの
の話だということで、舞台は北極圏です。
もう兎にも角にも好きそうでしかありませんので、迷わず選びました。
そして案の定夢中になり、上下巻の長編なのでのんびり楽しむつもりだったのに、夜更かしをしてわずか二晩で読んでしまい、体調を崩しかけました。

アホなの?(アホです。)
本作はシリーズ化され、原語では4作目まで刊行されているそうですが、日本語版はまだ2作目までしか出ていません。

あとひとつしかない…。
そこで、もうひとつ探してみたところ、著者と主人公がノルウェー人の
という小説を見つけました。
こちらは
としてロングセラーとなっていて、既に10作品(日本語版は8作品)刊行されているようです。

たくさんあるね。
ちなみに、「影のない四十日間」での反省を生かし、「ザ・バット 神話の殺人」は、今少しずつ読んでいるところです。
ということで、主に「影のない四十日間」を読んで、学んだことや感じたことをご紹介します。
ネタバレにならないように、気を付けて書いたつもりですが、これから読まれる予定の方は、ここから先は念のため、小説の読了後に見て頂けますと幸いです。
北欧ミステリーを読んで
理想と現実の乖離を知る
「影のない四十日間」は、先住民族であるサーミの人々と、かつての侵略者であった北欧の人々との、軋轢を背景とした物語です。
はじめの数十ページを読んで、まず
だということが、信じられませんでした。
冒頭に、遥か昔(17世紀)の過去の出来事の描写があったので

本編も昔の話なのかな?
と、時代背景を確認したほどです。
いつまでが昔のことで、いつからが最近のことになるのかは、時と場合によりますし、私はもう半世紀近く生きていますので、若い方とも感覚は異なるかもしれません。
けれど、作中で繰り広げられる人々の言動が、今や「平等」の代名詞とも称される北欧の
における、今(現代)の話だということに、とてもショックを受けました。
翻訳者によるあとがきには、本作の執筆経緯が書かれていました。
著者は、フランス人のジャーナリストで、ドキュメンタリー番組の制作に際し、長期に渡ってトナカイ警察の取材をしたそうです。
そして、その経験を基に本作の執筆を始めたそうで、事実に基づく内容が鏤められているとのことでした。
本国フランスでの刊行は2012年です。
そう聞くと少しだけ前の話の気もしますが、同じ2010年代から始まったフォーセン闘争の、最高裁判決が出たのは2021年のことです。
フォーセン闘争は、風力発電所の建設が、トナカイ放牧の権利を侵害しているとして争われている問題ですが、2023年にはオスロでデモが発生し、和解への動きがありつつも、依然として課題は残っているそうです。
歴史上、人間同士の対立は世界中で繰り返され、侵略、迫害、差別といった問題は、民族間に限ったことではありません。
同化政策によって、宗教や言語を強制したことで、話せる人が居なくなり(または減少し)消滅してしまう(または消滅の危機となる)言語は後を絶ちません。
けれど多くの先進国では、年月を経て我に返り、そういった過去の過ちを反省し、お互いを尊重して共生を目指す方向へ、移り変わっていくはずです。
もちろん、北欧諸国が、夢の国だとかユートピアだとか思っていた訳ではありません。
一方で、まだまだ差別が残っているのだろうなと、容易に想像できる国や地域も存在します。(特定の国を指している訳ではありません。)
そして何と言っても、我が国ニッポンは、ジェンダー・ギャップ指数がG7中最下位で、国連から勧告を受けるほどです。
また随分前のことになりますが、同じ北欧のデンマークや、多文化国家であるカナダにおける、イヌイットの人々との関わり方を、少しだけ聞きかじったことがあります。
そこで、古くから対話で解決していく姿勢であったことを知り

やっぱり北欧やカナダの人は、余裕があってオトナだね。
と、勝手に納得したりしていました。
そんな中、現実を知り、自分の認識との乖離に愕然としました。
何もわかっていなかったのだと、大変落ち込みました。
デンマークやカナダについては、良いところしか見ていなかったのかもしれません。
そもそも環境が過酷すぎて、太刀打ちできなかった、攻めて行くことができなかった、利用価値のある土地だと思わなかった、または、それだけの技術力がなかった、というだけのことだったのかもしれません。
そして、迫害や差別は絶対に止めなければならないことですが、逆に過剰に保護しようとすることも、新たな問題を生む要因となるということが、よく分かりました。
考えてみれば当たり前のことですが、反省して謝罪をしたからといって、全てが解決しそれで終わりという訳ではありません。
伝統文化を残すことを目的とした博物館があるからといって、差別や対立が一切無くなって、みんなが仲良く平和に暮らしているという証にはならないのですね。
奇しくも「ザ・バット 神話の殺人」にも、アボリジニの刑事が登場します。(物語の舞台はオーストラリアです。)
アボリジニの人々については、2000年のシドニーオリンピックのときに知りました。
同年代には、同じ方が多いかもしれません。
オーストラリアも豊かな先進国ですが、やはりこちらでも、土地の所有権の問題が続いていて、対立は無くなっていないそうです。
また、ノルウェーでは、一定の年齢層の人、特に南部には、サーミの人々のことをよく知らない若い人が少なくないそうです。
同じ国に住んでいるのに、と思うかもしれませんが、日本も同じです。
私はアイヌの人々について、学校で詳しく習った記憶はありません。
ただ、道東の友人宅へ遊びに行った際に、自分から希望してアイヌコタンへ連れて行ってもらったことがあります。
単に、民芸品やアイヌ語に興味があったからです。
若い頃のこととはいえ、せっかく連れて行ってもらったのに、歴史や背景などについては、何も分かろうとしていませんでした。
上述の
には、同じ北方民族であるという共通点があります。
北海道の
では、その共通性や多様性が研究され、展示が行われているそうです。
これからでも遅くありませんので、少しずつ理解を深めていきたいと思います。
自然の脅威にゾッとする
「影のない四十日間」の巻頭には、物語の舞台となるエリアの地図が掲載されています。
ミステリーに限らず、小説ではあるあるですが、この付属の地図が好きで、読書中には何度も見返して位置関係を確認してしまいます。
トナカイの放牧は、ノルウェーだけでなく、スウェーデン、フィンランド、ロシアの4か国にまたがった北極圏のエリアで営まれています。
地図を用意して、国名と主な地名を書き込んでみたのですが、ノルウェーがこんなに東側に入り込んでいて、ロシアと国境を接していることを知りませんでした。

また、表題となっている「影のない四十日間」とは、極夜の期間のことです。
一か月以上太陽が昇らず、ずっと真っ暗だなんて、体内時計が狂ってしまいそうです。
その極夜の期間が終わる日から、物語は始まります。
作中では、日の出、日の入の時刻と合わせて、日照時間が示されていて、その短さに驚愕します。
しかも、おそらく弱々しい太陽が、低いところに束の間顔を出すといった感じなのだと思います。
なので、文中に時刻が出てきても、午前なのか午後なのか混乱してしまい、明るさ(暗さ)や時間帯の感覚がいまいち掴めず、情景を思い浮かべるのがとても難しかったです。
ちなみに、極夜があるということは、白夜もあるということになりますが

極夜より白夜の方が意外とキツイかも…。
とふと思い、ドイツで暮らしたときのことを思い出しました。
西欧諸国は、日本と似たような気候だと思いがちですが、ドイツは北海道より緯度が高いです。
なので、冬はあっという間に暗くなりますが、これについては特に何とも思いませんでした。
ところが、春が来て夏が近づくと、しつこくうっすら明るくて、なかなか暗くなりません。(サマータイムの影響もあります。)
もう夜のはずなのに、なんだかソワソワして、落ち着かない気持ちになったのを覚えています。
少し緯度が高いだけでこんな状態ですから、一晩中明るい白夜が続くとなると、ほんの数日で体調を崩してしまいそうです。
そして、うっかり想像してゾッとしてしまったのが

ここにひとりぼっちで取り残されたとしたら…。
ということです。
物語の中には、街も登場します。
一方で、トナカイの放牧が行われているのは内陸部です。
トナカイ警察が、この内陸部へパトロールに行くときは、街で食料品を買い込み、スノーモービルのガソリンを満タンにし、予備タンクも準備します。
スノーモービルのうしろにはトレーラーを連結し、そこに必要な荷物を大量に積み込んで出発です。
もちろん服装も完全防備です。
北極圏の厳しさに慣れた人でも、逆に、慣れた人だからこその、入念な準備と大荷物です。
大袈裟でも何でもなく、生きて帰るために必要な装備です。
そんな場所に、たったひとりでポツンと佇む自分を思い浮かべてしまい、生きた心地がしませんでした。
サバンナで動物に襲われるのも怖いですし、砂漠で飲み水が無くなってしまうのも恐ろしいです。
けれど、何の事件も起きておらず、何もしていないのに、何もしていない(出来ない)からこそ、ただそこに居るだけで、命が危険にさらされるのです。
一面真っ白な静まり返ったその場所を想像して、美しさを感じるとともに背筋が凍りました。
圧倒的な自然の前で、自分がいかに無力な存在であるのかということを、改めて感じました。
宇宙には
という言葉がありますが、温暖で安全な瀬戸内気候で育ち、ちょっとした雪で大騒ぎする私のハビタブルゾーンは、とんでもなく狭いのではないかと心配になりました。

北海道でも、冬は怖くて行くのを躊躇しています。
生まれ育った土地を離れ、別の場所で暮らすことは、思っているより大変なことですね。
伝統工芸と民族衣装
繰り返しになりますが「影のない四十日間」は、実際の取材から得た事実を基に執筆されています。
中でも
に関する非常に細かい説明があり、作り方まで解説されている箇所もありました。
トナカイは、食料としてだけでなく、様々な生活用品に姿を変え、その命は余すことなく暮らしに取り入れられています。
伝統的な移動式テントは
と呼ばれ、トナカイの皮が使われています。
住居内の敷物や寝具といったファブリックにも、トナカイの毛皮が使われていて、暖かさが伝わってきます。
工芸品や道具には骨や角も使われ、ナイフの柄や装飾品に加工したり、白樺の瘤を削って作るコーヒーカップの持ち手に、角を埋め込んだりするそうです。
このコーヒーカップは
と呼ばれ、お土産や贈り物としても人気のようで、表面に伝統的な模様が彫刻されているそうです。
服飾品については、衣服はもちろん、帽子、手袋、靴にも、トナカイの毛皮が欠かせませんし、腱は糸としても使われるそうです。
作中には、民族衣装を着た人も登場します。
民族衣装は
といい、青を基調としたものが多く、色鮮やかな刺繍や縁取りが施され、そのデザインで、出身地域や家族構成などが判別できるそうです。
民族衣装は、刺繍や装飾が凝っていてかわいらしいものが多く、図鑑を見ていると、思わず顔がほころびます。
本格的な衣装でなくても、普段の服装や小物などに、テイストを取り入れてみるのも楽しそうですね。
物語には、伝統音楽である
や、キャンピングトレーラーとプレハブ小屋が合体したような
と呼ばれる小屋も頻繁に登場します。
ひとつの話で、これだけ未知の用語が出てくる小説は、珍しいかもしれません。
伝統文化に関する専門用語を、数多く知ることができました。
おわりに
ノルウェーに所縁のある
を読み、多くの学びがありました。
ドイツに住み、周辺国もいくつかは行ったことがあり、北欧を含むヨーロッパ諸国については、他の地域に比べ幾分詳しいつもりでいました。
けれど、もう50にもなろうとしているのに、本当に何も分かっていなかったと、久しぶりに落ち込みました。
2日ほど沈思黙考してしまいましたが、心は静まり返り、厳かな気持ちになりました。
地理や歴史などの事実は、文学(フィクション)からも学ぶことが出来ます。
また、文学だけでなく、絵画や音楽といった芸術の分野でも、その作品には様々な現実の背景があります。
一方で、事実を伝えるはずのニュースなどが、捏造や偏向報道だということもありますね。
しかもどうやら「事実」と「真実」は違うらしいのです。(弁護士さんが言っていました。)
情報過多の現代ですので、取捨選択をする目を持ち、本当に大切なことを見逃さないようにしたいですね。


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