2022年から2024年の間、iDeCoについて
などの改正が行われます。
改正内容と拠出限度額の解説をするとともに、iDeCoに加入した場合の減税額について、試算方法や具体的な金額をご紹介します。
主な改正
2022年4月:受給開始時期の上限延長
iDeCoの老齢給付金は、受給の開始時期を選択することができますが、その上限が70歳から75歳に延長されます。
改正後は、60歳(加入資格喪失後)から75歳までの間で、受給開始時期を選択することになります。
2022年5月:加入要件拡大(年齢、外国居住者)
iDeCoの加入要件が拡大されます。
新たに加入できるようになる方は以下です。
2022年10月:加入要件緩和(企業型DC)
企業型確定拠出年金(企業型DC)加入者の、iDeCoの加入要件が緩和されます。
企業型年金規約の定めによりiDeCoに加入できなかった方も、加入できるようになります。
要件は以下です。
掛金額の上限は、企業型DCの掛金(事業主掛金)と合算して、月額5.5万円までです。
2024年12月:拠出限度額の変更
確定給付型の他制度を併用する場合の、iDeCoの拠出限度額が、月額1.2万円から2万円に引上げられます。
掛金額の上限は、企業型DCの掛金(事業主掛金)および確定給付型の他制度による掛金相当額と合算して、月額5.5万円までです。
拠出限度額
国民年金第1号被保険者
国民年金第1号被保険者は、主に
の方です。
拠出限度額は
です。
国民年金の付加保険料や国民年金基金の掛金がある場合は、それらとの合計で6.8万円までです。
上記の改正による、拠出限度額の変更はありません。
国民年金第2号被保険者
国民年金第2号被保険者は、会社員などの厚生年金に加入している方です。
確定給付型の
などの他制度と
への加入状況によって、iDeCoへの加入要件や拠出限度額が異なります。
現行(2022年6月現在)
確定給付型 | 企業型DC | 拠出限度額 | その他の限度額 |
---|---|---|---|
○有り | ○有り | 月額1.2万円 | 企業型DC:月額1.55万円 |
○有り | ×無し | 月額1.2万円 | |
×無し | ○有り | 月額2万円 | 企業型DC:月額3.5万円 |
×無し | ×無し | 月額2.3万円 |
なお、企業型DCに加入している場合は、規約で認められている場合のみiDeCoへの同時加入が可能です。
2022年10月~2024年11月
確定給付型 | 企業型DC | 拠出限度額 | その他の限度額 |
---|---|---|---|
○有り | ○有り | 月額1.2万円 | 企業型DCと合算で月額2.75万円 |
○有り | ×無し | 月額1.2万円 | |
×無し | ○有り | 月額2万円 | 企業型DCと合算で月額5.5万円 |
×無し | ×無し | 月額2.3万円 |
iDeCoの拠出限度額自体に変更はありませんが、改正により、企業型DCのみの限度額要件は撤廃され、iDeCoとの合算での限度額となります。
また、企業型DCの規約での同時加入を認める定めも不要となります。
2024年12月以降
確定給付型 | 企業型DC | 拠出限度額 | その他の限度額 |
---|---|---|---|
○有り | ○有り | 月額2万円 | すべて合算で月額5.5万円 |
○有り | ×無し | 月額2万円 | 確定給付型と合算で月額5.5万円 |
×無し | ○有り | 月額2万円 | 企業型DCと合算で月額5.5万円 |
×無し | ×無し | 月額2.3万円 |
確定給付型と企業型DCの加入者について、拠出限度額を公平化するため、iDeCoの拠出限度額と、合算での限度額が、それぞれ同額となります。
国民年金第3号被保険者
国民年金第3号被保険者は、国民年金第2号被保険者(厚生年金の被保険者)に扶養されている、20歳以上60歳未満の方です。
拠出限度額は
です。
上記の改正による、拠出限度額の変更はありません。
シミュレーションの手順
事前準備:現況の確認
会社員で、確定申告をせず年末調整のみの方は、源泉徴収票を確認します。
年収600万円の方を例に、現在の税額がどのように計算されているか、みていきましょう。
会社員のAさんは年収600万円です。
源泉徴収票は以下のようになります。
支払金額 | 給与所得控除後の金額 | 所得控除の額の合計額 | 源泉徴収税額 |
6,000,000 | 4,360,000 | 1,354,200 | 207,200 |
所得控除の内訳は
と
で、給与所得控除以外の所得控除の合計額が、「所得控除の額の合計額」の欄に記載されます。
社会保険料控除は、月々の給与から天引きされている、年金や健康保険などの金額です。
従って、所得税の課税の対象となる金額(=課税所得)は
となります。
この金額(課税所得)に税率をかけるのですね。
はい。速算表は以下です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
3,005,000円なので10%ですね。
所得税は累進課税なんですよね。
はい。そうなんですが、控除額を忘れないで下さい。
所得税の累進課税は、超過累進税率方式です。
課税所得が多くなるほど税率が高くなりますが、それは「超えた分」だけです。
上記の場合、3,005,000円のうち、1,950,000円までの分は5%です。
速算表には、その調整のために控除額が設けられています。
課税所得が3,005,000円の場合、速算表で計算すると
となりますが、本来の計算式は
です。
10%になるのは、1,055,000円分だけなのですね。
はい。
3,005,000円全体が10%ではありませんので、注意が必要です。
あれ?
計算した所得税額は203,000円ですが、源泉徴収税額と金額が違います。
所得税と合わせて、復興特別所得税というのがあります。
東日本大震災の復興のためのもので、所得税額の2.1%です。
従って、実際に納める金額は
で計算します。
所得税額が203,000円の場合は
となります。
また、住民税については、市町村によって、所得控除や厳密な税率に違いがありますが
で計算するとよいでしょう。
所得税の課税所得が3,005,000円の場合は
と考えて、大きな誤差はありません。
ということで合計すると
所得税5%分(1,950,000円) | 97,500円 |
所得税10%分(1,005,000円) | 105,500円 |
住民税10%分(3,005,000円) | 300,500円 |
合計 | 503,500円 |
となります。
なお、例では
などは無いものとしましたが、いずれも所得控除ですので、課税所得から控除されます。
例えば、大学生のお子様を扶養している場合は
ですので、上記の例ですと
となります。
ご自身の源泉徴収票に合わせて、計算してみて下さい。
一方
は税額控除です。
所得控除とは違い、算出された税額から直接控除されるもので、金額も大きいです。
源泉徴収票の源泉徴収税額がゼロの場合は、iDeCoの拠出によって所得控除を追加し、所得税額を減額する効果はありません。
逆に、所得控除は税額控除に優先されますので、課税所得が少なくなると、税額控除が引ききれなくなる可能性がありますし、所得税で控除しきれなかった金額がある場合は、住民税から控除されます。
住宅ローン控除を受けていて、課税所得が低い場合は、注意が必要です。
拠出額の検討とiDeCoの取扱い
それでは試算を始めましょう。
会社員の場合は、多くても2.3万円が限度です。
現行(2022年6月現在)では、限度額が1.2万円の方もいらっしゃるでしょう。
ということで、月額1万円の場合と、月額2万円の場合で、試算してみたいと思います。
なお、iDeCoの拠出額は
に該当し、拠出額の全額が控除できます。
年末調整の書類の「保険料控除申告書」に
という欄があり、ここに記入することで、年末調整で処理することができます。
試算例
月額1万円の場合
月額1万円ですので、年額は12万円です。
社会保険料控除が12万円追加されますので
となります。
減税額は、所得税と住民税それぞれ12,000円ずつ、合計24,000円で、拠出額の20%です。
月額2万円の場合
月額2万円ですので、年額は24万円です。
社会保険料控除が24万円追加されますので
となります。
減税額は、所得税と住民税それぞれ24,000円ずつ、合計48,000円で、拠出額の20%です。
まとめてシミュレーション
上記をふまえ、年収別にまとめて試算しました。
会社員の方を例としていますが
と読み替えて頂けます。
年収600万円の場合
iDeCoなし | 月額1万円 | 月額2万円 | |
---|---|---|---|
支払金額 | 6,000,000 | 6,000,000 | 6,000,000 |
(給与所得控除) | 1,640,000 | 1,640,000 | 1,640,000 |
給与所得控除後の金額 | 4,360,000 | 4,360,000 | 4,360,000 |
(社会保険料控除) | 874,200 | 874,200 +120,000 | 874,200 +240,000 |
(基礎控除) | 480,000 | 480,000 | 480,000 |
所得控除合計額 | 1,354,200 | 1,474,200 | 1,594,200 |
(課税所得金額) | 3,005,000 | 2,885,000 | 2,765,000 |
(所得税額) | 203,000 | 191,000 | 179,000 |
(所得税差額) | 0 | △12,000 | △24,000 |
源泉徴収税額 | 207,200 | 195,000 | 182,700 |
(住民税:10%) | 300,500 | 288,500 | 276,500 |
(住民税差額) | △12,000 | △24,000 | |
(差額合計) | △24,000 | △48,000 |
年収600万円の会社員の減税額は、拠出額のおよそ20%です。
課税所得が300万円程度の個人事業主等も同様です。
年収1,200万円の場合
iDeCoなし | 月額1万円 | 月額2万円 | |
---|---|---|---|
支払金額 | 12,000,000 | 12,000,000 | 12,000,000 |
(給与所得控除) | 1,950,000 | 1,950,000 | 1,950,000 |
給与所得控除後の金額 | 10,050,000 | 10,050,000 | 10,050,000 |
(社会保険料控除) | 1,351,812 | 1,351,812 +120,000 | 1,351,812 +240,000 |
(基礎控除) | 480,000 | 480,000 | 480,000 |
所得控除合計額 | 1,831,812 | 1,951,812 | 2,071,812 |
(課税所得金額) | 8,218,000 | 8,098,000 | 7,978,000 |
(所得税額) | 1,254,140 | 1,226,540 | 1,198,940 |
(所得税差額) | 0 | △27,600 | △55,200 |
源泉徴収税額 | 1,280,400 | 1,252,200 | 1,224,100 |
(住民税:10%) | 821,800 | 809,800 | 797,800 |
(住民税差額) | △12,000 | △24,000 | |
(差額合計) | △39,600 | △79,200 |
年収1,200万円の会社員の減税額は、拠出額のおよそ33%です。
課税所得が800万円程度の個人事業主等も同様です。
年収300万円の場合
iDeCoなし | 月額1万円 | 月額2万円 | |
---|---|---|---|
支払金額 | 3,000,000 | 3,000,000 | 3,000,000 |
(給与所得控除) | 980,000 | 980,000 | 980,000 |
給与所得控除後の金額 | 2,020,000 | 2,020,000 | 2,020,000 |
(社会保険料控除) | 454,224 | 454,224 +120,000 | 454,224 +240,000 |
(基礎控除) | 480,000 | 480,000 | 480,000 |
所得控除合計額 | 934,224 | 1,054,224 | 1,174,224 |
(課税所得金額) | 1,085,000 | 965,000 | 845,000 |
(所得税額) | 54,250 | 48,250 | 42,250 |
(所得税差額) | 0 | △6,000 | △12,000 |
源泉徴収税額 | 55,300 | 49,200 | 43,100 |
(住民税:10%) | 108,500 | 96,500 | 84,500 |
(住民税差額) | △12,000 | △24,000 | |
(差額合計) | △18,000 | △36,000 |
年収300万円の会社員の減税額は、拠出額のおよそ15%です。
課税所得が100万円程度の個人事業主等も同様です。
おわりに
iDeCoについて
をご紹介しました。
ご自身の現況について確認し、無理や無駄のない節税ができるといいですね。