店舗を借りてお店を始める予定です。
内装工事の取扱いが難しいと聞いて少し不安なのですが…。
貸店舗の内装工事や内部造作については論点がたくさんあります。
主なものとして
といった疑問について解説していきます。
開店時の内装工事:建物or建物附属設備
新店舗をオープンするときには、照明・空調・給排水・電気・ガスなどの設備や、間仕切り・壁板・カウンターなど、さまざまな内装工事をしますよね。
これらの工事に支出した金額は、多くの場合、全額が工事をした年度の費用となるのではなく、いったん資産に計上してから減価償却によって徐々に費用化されます。
そして、この各年の費用(減価償却費)は、資産の種類ごとに定められた耐用年数によって決まります。
資産の種類が「1年分の費用の額」や「全額が費用化される年数」に影響しますので、順を追って慎重に分類していきましょう。
Step1:明細書を確認しよう
工事の請求書には、たいていの場合、明細が付いていますよね。
請求書の合計額で「内装工事一式 〇〇円」なんて計上したりはしません。
できる限り細かく分けて、それぞれについて個別に検討していきます。
資産の種類や耐用年数を確認するためには、各工事の内容がとても大切です。
詳しく区分された明細書を必ず確認しましょう。
Step2:工事以外の項目をみつけよう
仲介業者さんなどに一括して発注した場合には、工事以外の工具・器具備品・機械装置や、消耗品、その他の経費なども明細に含まれている場合があります。
工事に関係のないものがあれば抽出しましょう。
資産の種類は、主に「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の耐用年数表で確認します。
工具や器具備品などは「別表第一 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表」、機械装置は「別表第二 機械及び装置の耐用年数表」にあります。
工事の明細書は専門用語が多くて目を白黒させてしまいますよね。
内容がよくわからないものがあれば先方に確認しましょう。
ちなみに、ご自身の業種に関するものでしたら見分けるのは簡単ですよね。
飲食関係なら厨房機器、音楽関係なら音響機器、美容関係なら理・美容機器、整備関係なら専用工具など、単体で購入できて明らかに工事とは関係のないものは分けておきましょう。
少額の消耗品や器具備品などは、通常の減価償却以外の方法を選択できる場合もあります。必ず確認しましょう。
Step3:建物附属設備をみつけよう
工事に関するものだけを残すことができたら、次は建物附属設備を探します。
借りている建物の内装工事は、建物附属設備に該当するものを除き建物に含まれます。
まずは建物附属設備を抽出し、残りは建物として計上することになります。
建物附属設備とその耐用年数も「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の「別表第一 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表」で確認します。
具体的には以下のようになっています。
電気設備 (照明設備を含む。) | 蓄電池電源設備 | 6 |
その他のもの | 15 | |
給排水又は衛生設備及びガス設備 | 15 | |
冷房、暖房、通風 又はボイラー設備 | 冷暖房設備 (冷凍機の出力が 22kw以下のもの) | 13 |
その他のもの | 15 | |
昇降機設備 | エレベーター | 17 |
エスカレーター | 15 | |
消火、排煙又は災害報知設備及び格納式避難設備 | 8 | |
エヤーカーテン又はドアー自動開閉設備 | 12 | |
アーケード又は日よけ設備 | 主として金属製のもの | 15 |
その他のもの | 8 | |
店用簡易装備 | 3 | |
可動間仕切り | 簡易なもの | 3 |
その他のもの | 15 | |
前掲のもの以外のもの及び 前掲の区分によらないもの | 主として金属製のもの | 18 |
その他のもの | 10 |
店舗の内装工事でよくあるのは、上の3つ(電気設備、給排水設備等、冷暖房設備等)と、店用簡易装備、可動間仕切りなどですね。
ポイント:店用簡易装備
店用簡易装備の具体例としては
などで、短い周期(おおむね3年以内)で取替えが見込まれるものが対象です。
ポイント:冷暖房設備(エアコン)
エアコンって備品じゃないんですか?
たしか耐用年数が6年の「冷房用又は暖房用機器」というのがあったような…。
そうですね。
家庭にあるような簡単に取り外しができるエアコンは備品になります。
では商業ビルなどで見かける、天井に埋め込まれているエアコンはどうでしょうか。
それらのうち「ダクトを通じて相当広範囲にわたって冷房するもの」は、建物附属設備の「冷房設備」になります。
大きなビルのセントラル空調などが該当しそうですね。
建物附属設備の「冷房設備」の耐用年数は13年または15年です。
誤って備品としてしまうと、減価償却費を過大に計上してしまうことになりますので注意しましょう。
ポイント:可動間仕切り
内装工事に頻出の間仕切りですが、建物附属設備の「可動間仕切り」は
であることが条件です。
形態としては、パネル式やスタッド式のものが想定されています。
アコーディオンドアやスライディングドアなど、固定されていて、他の場所で再使用することができないものは建物附属設備の「可動間仕切り」には該当せず、建物になります。
Step4:建物の耐用年数を確認しよう
ここまで分類できたらもうあと一息です。
明細書から器具備品などや建物附属設備の抽出ができたら、残りは建物になるんでしたよね。
最後の大仕事は、建物の耐用年数の確認です。
自己所有の建物であれば、その建物の耐用年数を使いますが、借りている建物の耐用年数は、以下のいずれかになります。
ただし、賃借期間を耐用年数とできるのは、以下の条件をいずれも満たす場合に限られます。
イベントや季節ものなどであれば期間の定めがある場合もあるかもしれませんが、通常の店舗で更新ができないというのはあまりありませんよね。
ということで、多くの場合は耐用年数を見積ることが必要になります。
手順の一例をご紹介します。
- Step1工事の分類
明細書に従って工事を分類します。
- Step2各工事の耐用年数の見積り
分類された工事ごとに耐用年数を見積ります。
- Step31年分の償却費の算出
見積った耐用年数を使って1年分の償却費を算出します。
- Step4耐用年数の平均値を算出
合計額から耐用年数の平均値を算出します。
(990+390+442)÷(45+39+34)=15.4 ≒15年
- Step5合算して計上
ひとつにまとめて合計額で建物として資産計上します。
建物 1,822万円 (耐用年数:15年)
耐用年数を見積ることはなかなか難しいですが、床・壁・窓などの工事の種類ごとに
といった方法があります。
耐用年数表はじっくり見ていただくと、用途と材質でおおまかに分類できます。
材質については、木造や木製のものより、金属や鉄筋コンクリートなどの方が長持ちするのは感覚でわかりますよね。
用途については、より過酷な使われ方をするであろう業種になるにつれて、耐用年数が短くなっていきます。
例えば、住宅に比べて、平日の日中にほぼデスクワークにしか使わない事務所用の建物は長持ちしますよね。
逆に工場や倉庫などは、重い荷物や機械作業などで床や壁が早く痛みます。
ホテルや旅館なども、一般の住宅よりは耐用年数は短いですね。
また、ショッピングモールや店舗ビルなどでは「老舗のお隣さんが10年ごとに同じ工事をしている」なんて実績があったりします。
業種が異なる場合には、用途(店舗用、飲食店用、劇場用、旅館用など)の比率などを参考にします。
最終的には、分類したすべての工事を合算して、ひとつの「建物」として計上します。
そのために、耐用年数の平均値を算出し、それがその「建物」の耐用年数になります。
改装時の内装工事:修繕費or資本的支出
オープン時に、オシャレにピカピカに内装工事をしたお店も、だんだん傷んできたり、流行に合わなくなったり、店長の趣味が変わったり(!?)して、修理や改装をする日がやってきます。
店舗の修理や改装を行った場合に問題になるのが
ですね。
まずは、まとめて「工事一式〇〇円」ではなく、明細に従って工事の内容を分類します。
詳細に区分できたら、Yes/No判定で確認していきましょう。
では問1からスタートです。
Yes/No判定
問1.20万円未満ですか
支出金額が少額のものについては修繕費とすることができます。
問2.3年以内の周期ですか
周期の短い費用については修繕費とすることができます。
過去の実績などから、おおむね3年以内の周期で、定期的に修理や取替・交換などがされていることが条件です。
金額の上限はなく、過去の実績については証憑があればOKです。
問3.価値を高めるものや耐久性を増すものですか
資本的支出とは
のことをいいます。
具体的な例示としては
とされています。
該当する場合には、資本的支出として資産に計上し減価償却によって徐々に費用化されます。
問4.通常の維持管理や原状回復のためのものですか
修繕費とは
のための費用のことをいいます。
具体的な例示としては
とされています。
該当する場合には修繕費とすることができます。
キーワードは、現状維持・原状回復ですね。
今までと同じように使えるように「維持しただけ」「元に戻しただけ」というところがポイントです。
なお、災害により被害を受けた固定資産について支出した費用である場合には特例があります。
災害特例
災害により被害を受けた固定資産について支出した費用で、以下のものは修繕費と認められます。
原状回復のためのものは当然修繕費ですね。
また、耐震性を高めるための補強工事などは原状回復とはいえませんが、二次災害の防止などの目的で行われたもので、法人が修繕費として経理しているときは、災害前の効用を維持するためのものとして修繕費と認められます。
問5.60万円未満または前期末取得価額の10%以下ですか
資本的支出か修繕費か区分が不明な場合には、形式基準で判定します。
支出金額が以下のいずれかに該当する場合には修繕費とすることができます。
問6.割合区分による方法を継続して採用していますか
資本的支出か修繕費か区分が不明な場合に、割合区分という方法を採用することができます。
この方法は、継続して採用していることが条件です。
区分が不明な支出が継続しているといった場合に使われる方法ですので少し特殊ですね。
具体的には、以下のいずれか少ない金額を修繕費とすることができ、残額を資本的支出とします。
なお、災害により被害を受けた固定資産について支出した費用である場合には特例があります。
災害特例
災害により被害を受けた固定資産について支出した費用で、法人が以下のように経理しているときは、それが認められます。
こちらは災害時の特例ですので、継続して採用しているかどうかは問いません。
問7.実質で判断
最終的には実質で判断することになります。
資本的支出は、「価値を高めるもの」や「耐久性を増すもの」です。
修繕費は、「通常の維持管理」や「原状回復のためのもの」です。
例えば、修理や改装で定番の壁紙の張り替えや壁の塗装工事。
結構大きな金額になりますので資本的支出と思いがちですが、実は修繕費である場合がよくあります。
ポイントは「通常の維持管理」の範囲かどうか、つまり、これまでと同じ材質かどうかです。
新しい壁紙や塗料が、これまでのものより性能がいいもので、価値を高めたり耐久性を増すものであれば資本的支出になります。
けれど、これまでと同じ性能のものであれば、ただの「通常の維持管理」や「原状回復」ですので修繕費となります。
内装業者さんなどが「これまでのものより長持ちします。寿命がのびます。」と勧めてくれるものは資本的支出ですね。
ちなみに、性能がよくなると修繕費にならないからという理由で、頑なに時代遅れの同じ性能のものを使い続けるのはあまりよくありませんね。
修繕費はすぐに費用になりますが、資本的支出だって年数はかかりますが最終的にすべて費用になります。
新しいものが開発されて性能は向上していくものですので、過度に早期の費用化にこだわらず、事業全体にとって良いと思うものを選びたいですね。
内装工事の固定資産税:家屋or償却資産
内装工事をした場合に忘れてはならないのが、固定資産税の確認です。
内装工事は「償却資産」ですよね?
違うわよ。「家屋」よね?
どちらも正解です。
固定資産税には「土地」「家屋」「償却資産」という分類がありますが、立場によってその分類が異なるものがあります。
「特定附帯設備」というもので、その代表的なものが内装工事です。
内装工事は、その工事をした建物が「自分が所有している建物か」「借りている建物か」で、「家屋」となる場合と「償却資産」となる場合に分かれます。
償却資産に該当した場合には、市町村へ「償却資産申告書」の提出が必要です。
償却資産になるのは「建物附属設備」に計上した内装工事だけですか?
いえいえ。「建物」に計上した内装工事も「償却資産」になります。
固定資産税での「家屋」や「償却資産」の分類と、会計や法人税などでの「建物」や「建物附属設備」の分類は関係ありません。
「建物」でも「建物附属設備」でも、「特定附帯設備」(借りている建物の内装工事など)に該当すれば「償却資産」です。
「建物附属設備」とした電気設備や給排水設備などはもちろん、「建物」とした壁・床・天井の仕上げや建具なども対象です。
「建物」に計上した内装工事についても、償却資産の申告に含めるのを忘れないようにしましょう。
また、内装工事ばかりに気をとられがちですが、本来の償却資産(器具備品など)も忘れずに申告しましょう。
ちなみに、家屋の所有者(貸主)は、賃借人が特定附帯設備を取り付けた場合には、「特定附帯設備に関する届出書」と「賃借人一覧表」を提出することになっています。(神戸市の場合)
おわりに
内装工事や内部造作は、取扱いが複雑で、その判断が難しい場合もあります。
あとで「なんだったっけ?」とならないように、工事前・工事中や、見積書・請求書をもらったときなど、その都度詳細を確認しておきましょう。
お店の新規オープンや改装は、楽しみでわくわくしますよね。
疑問や不安があれば、早めに解消しておきましょう。