オーナー企業の経営者です。
相続や事業承継に備えて準備をしておきたいです。
株式の評価が必要ですね。
上場していない会社の株式については
などと呼ばれることもありますが、財産評価の場面では
といいます。
この取引相場のない株式は
のいずれかで評価しますが、オーナー企業の大株主やその親族のように
する者が納税義務者となる場合には
によって評価することになります。
なお、親族で株式の大半を所有している場合であっても、その分散状況や取得者(納税義務者)によっては
する少数株主と判定され
による評価となることもあります。
今回は、オーナー企業の相続や事業承継を前提とした
による評価の、はじめの一歩である
について解説します。
まずは、評価方法(計算式)の決定に影響を及ぼす各要素を、確認しておきましょう。
一般の評価会社:会社規模の判定
取引相場のない株式の評価額は
の2つの金額を使って計算します。
類似業種比準価額とは、上場している同業他社の株価を基に一定の割合を考慮して算出した金額です。
純資産価額とは、相続税評価額に評価替えした資産の合計額から負債等の合計額を差し引いた金額で、帳簿価額とは異なります。
この2つの金額を、会社の規模に応じて、異なる割合で組み合わせて計算します。
会社規模の分類は
の5つです。
大会社の場合は
になります。
一般に類似業種比準価額の方が低くなることが多く、2種類の金額を比較するだけのこの方式を
といいます。
中会社の計算方法は
と呼ばれ
で算出します。
Lの割合は
です。
小会社の場合は
で算出し、この計算方法を
といいます。
以上をまとめると
であると仮定した場合、以下のようになります。
[純]純資産価額
大会社 | [類] | 類似業種比準方式 |
中会社(大) | [類]× 0.90 +[純]× 0.10 | 併用方式 |
中会社(中) | [類]× 0.75 +[純]× 0.25 | 併用方式 |
中会社(小) | [類]× 0.60 +[純]× 0.40 | 併用方式 |
小会社 | [類]× 0.50 +[純]× 0.50 | 純資産価額方式 |
上の方に分類された方が得ってことですか?
おっしゃる通りです。
低い方の金額(類似業種比準価額)の割合が多い方が、評価額は低くなりますね。
たとえば
であった場合
となります。
でも会社規模の分類って、最初から決められているんじゃないんですか?
いいえ。あなた(の会社)次第です!
会社規模は、以下のような書類に沿って判定します。
判定に使われる要素は
の3つです。
従業員は
で、70人以上であれば大会社となり、ここで判定は終了です。
70人未満であれば、総資産価額と組み合わせて判定します。
総資産価額は
です。
業種に応じて基準が異なり、従業員数と合わせて少ない方で判定します。
取引金額は
です。
こちらも業種に応じて基準が異なり、取引金額と従業員の判定結果と合わせて、多い方で判定します。
たとえば
だった場合、以下のようになります。
短時間のアルバイトさんも従業員に数えていいのですか?
従業員の数え方には決まりがあります。
従業員のうち、1人として数えることができるのは
と呼ばれる
の勤務をしている従業員のみです。
継続勤務従業員に該当しない、短期間や短時間勤務の従業員については、労働時間で換算して人数を算出します。
具体的には、年間1,800時間で1人分になります。
たとえば
だった場合は、従業員が80人で大会社に該当するように思いますが、実際には
で、中会社になります。
新入社員や退職者の状況、各従業員の労働時間が少し違うだけで、会社規模の判定が変わることがあります。
総資産価額(帳簿価額)と取引金額(売上高)の金額基準はもちろん、従業員の就業状況についても、賃金台帳やタイムカードなどを正確に管理して、こまめに確認しておけるといいですね。
特定の評価会社
営業状態や資産の保有状況が特殊な会社については、類似業種比準価額を用いて評価することが適当でないため
として、原則として純資産価額で評価することになります。
評価額が高くなるということですね。
はい。
一般の評価会社より不利になることが多いです。
特定の評価会社となるのは、営業状態が特殊な状況である
資産の保有状況が特殊である
そして、継続的に営業はしているけれど、財政状態や経営成績に問題があるとされる
があります。
比準要素とは、直前期末の1株当たりの
のことで、類似業種比準価額の算出に使われる金額です。
この3要素すべてがゼロ(またはマイナス)の場合は
となり、会社規模に関わらず
で評価することになります。
また、すべてがゼロ(マイナス)とまではいかなくとも
である場合は
に該当する可能性があります。
前期のみの金額で判定すると、たまたまその事業年度だけのことだったかもしれません。
そこでさらに遡って、2期前と3期前の金額や平均額も考慮して、重ねて判定します。
その結果
に該当することとなってしまった場合は、会社規模に関わらず
で評価することになります。
小会社より損ですね。
そうですね。
類似業種比準価額の割合が、小会社よりもさらに低いですね。
オーナー企業の場合、配当をしていないことが多く、赤字が続くと
に該当してしまうことがあります。
何期も連続して各要素がゼロ(マイナス)とならないように、事業の計画等を見直して、事前に対策を講じておきたいところです。
利益を出し、余裕があれば配当をして、特定の評価会社(比準要素数1の会社)となることだけは避けたいですね。
おわりに
取引相場のない株式の
のうち、主に
について解説しました。
評価額算出のメインである
についても、それぞれ様々な要素や注意点、そして複雑な計算式がありますが、いずれにしても、相続発生前後や事業承継の直前になってから
思っていたより評価額が高いかも!
となっても、できることは限られます。
取引相場のない株式の評価は難解ですが、オーナー企業の経営者や親族であれば、将来の相続や事業承継に備えて、なるべく早く準備を始めておきたいところです。
まずは、どのような要素が評価方法に影響を及ぼすのかを知り、少しずつ理解を深めていけるといいですね。