中小企業には、税制上の優遇措置がいくつかあります。
多くの場合、その適用可否の判定には期末の資本金の額が使われますが、判定時期に注意が必要な規定もあります。
その代表的なものとして、租税特別措置法の
を例に、判定時期について解説します。
概要
優遇措置を受けられる中小企業には
の2種類があります。
中小法人(法人税法)の優遇措置は、以下の6つです。
判定基準のひとつとして、期末の資本金の額が使われます。
中小企業者等(租税特別措置法)の優遇措置には
いわゆる、30万円未満の減価償却資産を一時に償却できる特例のほか
などの特別控除に関する規定があり、判定基準のひとつとして、資本金の額が使われます。
資本金の額の判定時期
原則
「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」の適用が受けられる「中小企業者等」に該当するかどうかの判定は
の現況によるものとされています。
つまり、期末ではなく、減価償却資産の取得日、事業供用日の資本金の額で判定することになります。
事業年度の中途で増減した場合

増資や減資をして、事業年度の途中で資本金の額が変わった場合はどうなりますか?

いい質問ですね!
たとえば、中小企業者(資本金1億円以下)から、増資をして大規模法人(資本金1億円超)に変わった場合、事業供用日が増資前であれば、中小企業者に該当し特例の規定の適用ができます。
- 期首資本金:9,000万円
(中小企業者)
- 資産取得、事業供用
中小企業者:適用可
- 増資:+2,000万円
中小企業者→大規模法人
- 期末資本金:1億1,000万円
(大規模法人)
一方、増資をしたあとで、資産を取得した場合は、事業供用日には中小企業者に該当しませんので、特例の規定は適用できません。
- 期首資本金:9,000万円
(中小企業者)
- 増資:+2,000万円
中小企業者→大規模法人
- 資産取得、事業供用
大規模法人:適用不可
- 期末資本金:1億1,000万円
(大規模法人)
減資をした場合も同様に、事業供用日の現況で判定します。
- 期首資本金:1億1,000万円
(大規模法人)
- 減資:▲2,000万円
大規模法人→中小企業者
- 資産取得、事業供用
中小企業者:適用可
- 期末資本金:9,000万円
(中小企業者)
- 期首資本金:1億1,000万円
(大規模法人)
- 資産取得、事業供用
大規模法人:適用不可
- 減資:▲2,000万円
大規模法人→中小企業者
- 期末資本金:9,000万円
(中小企業者)
グループ企業の場合

親会社の資本金の額の判定も同様ですか?

いい質問ですね!
グループ企業の場合は、親会社の資本金の額も、中小企業者等の判定に影響を与えます。
たとえば、出資割合が100%の親会社がある場合は、その親会社の資本金の額も1億円以下でなければ、中小企業者に該当しません。
親会社で増資や減資があった場合も、上記と同様に事業供用日で判定することになります。
親会社の資本金が外貨の場合

親会社が外国企業です。為替が変動した場合はどうなりますか?

いい質問ですね!
たとえば
の場合、親会社の資本金を円換算すると、為替レートが
となり、134円の日に事業供用した場合は、中小企業者に該当せず、特例の規定が適用できません。
役員報酬の定期同額給与については、外貨で支払われる場合、その外貨の金額のままで同額であれば
ということになっています。
けれど、中小企業者等の判定については、そのような言及が特にありません。
従って、規定どおりに解釈すると、為替レートが中小企業者等の判定に影響を及ぼすことになります。
資本金が700,000EURから800,000EUR程度の場合、円換算額が1億円付近になります。
中小法人の判定の場合は、5億円が境になりますが、3,500,000EURから4,000,000EUR付近です。
外国の関係会社がある場合は、為替レートがいくらになると、1億円または5億円を行ったり来たりするのか、把握しておくといいですね。
EUR | レート | 円換算額(千円) |
---|---|---|
700,000 | 143.00 | 100,100 |
700,000 | 142.00 | 99,400 |
800,000 | 125.00 | 100,000 |
800,000 | 124.00 | 99,200 |
3,500,000 | 143.00 | 500,500 |
3,500,000 | 142.00 | 497,000 |
4,000,000 | 125.00 | 500,000 |
4,000,000 | 124.00 | 496,000 |
おわりに
租税特別措置法の
を例に、中小企業者等の資本金の額の判定時期について解説しました。
中小企業の優遇措置は、多くの場合、資本金の額を適用可否の判定基準としますが、その判定時期は期末ばかりではありません。
適用可能な優遇措置を確認し、増資や減資、組織再編等は、計画的に行いましょう。