法人の設立事業年度は1年未満となる場合があります。
その際の留意点について解説します。
減価償却
減価償却資産の償却限度額を計算するための償却率は、事業年度を1年として定めたものですので、事業年度が1年未満の場合には、償却率を調整する必要があります。
償却率の調整は以下のように行います。
調整後の償却率=調整前の償却率×事業年度の月数/12(小数点以下3位未満切上)
また、1年未満である事業年度の中途で取得した場合には、調整後の償却率を使用して計算した上で、月割計算をします。
償却限度額=取得価額×調整後の償却率×事業供用期間の月数/事業年度の月数
分母は12ではなく事業年度の月数です。
例えば、事業年度が4月から翌年3月の法人が、400万円の自動車(耐用年数6年、定率法、償却率0.333)を10月に購入した場合の償却限度額は以下のようになります。
4,000,000×0.333×6/12=666,000
4,000,000×0.250(※)×6/9=666,666
(※)0.333×9/12=0.24975→0.250

算式を全部まとめたら通常の場合と同じじゃないですか?

そうなんですが、償却率に関する決まりでは上記のようになっています。
途中の端数処理の関係で、少しだけ金額が変わりますね。
一括償却
一括償却資産の損金算入限度額は
一括償却対象額×事業年度の月数/36
です。
例えば、事業年度が4月から翌年3月の法人が、18万円の固定資産を購入した場合は
180,000×12/36=60,000
180,000×9/36=45,000
となります。
中小企業者等の少額減価償却資産(租税特別措置法)
中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入の限度は
3,000,000×事業年度の月数/12
です。
事業年度が4月から翌年3月の法人の場合は
3,000,000×12/12=3,000,000
3,000,000×9/12=2,250,000
となります。
交際費等の損金不算入額
交際費等の損金不算入額の定額控除限度額は
8,000,000×事業年度の月数/12
です。
事業年度が4月から翌年3月の法人の場合は
8,000,000×12/12=8,000,000
8,000,000×9/12=6,000,000
となります。
寄附金の損金不算入額
寄附金の損金不算入額の計算でも事業年度の月数が使用されます。
期末資本金等の額×事業年度の月数/12×3.75/1,000 … (以下略)
期末資本金等の額×事業年度の月数/12×2.5/1,000 … (以下略)
留保金課税
留保金課税の計算でも事業年度の月数が使用されます。
20,000,000×事業年度の月数/12
(A)年3,000万円以下
30,000,000×事業年度の月数/12(千円未満切捨)
(B)年3,000万円超年1億円以下
100,000,000×事業年度の月数/12(千円未満切捨)ー(A)
… (以下略)
貸倒引当金(一括評価)の貸倒実績率
貸倒実績率は過去3年間の実績から算出する割合ですが、設立事業年度には過去の実績がないため、以下のように計算します。
貸倒実績率=(設立事業年度の貸倒損失額×12/設立事業年度の月数)/(設立事業年度の一括評価金銭債権の額/1)(小数点以下4位未満切上)
法人税率
資本金が1億円以下の法人などでは、年800万円以下の所得金額には15%の税率が適用されます。
年額ですので
8,000,000×事業年度の月数/12(千円未満切捨)
です。
例えば、事業年度が4月から翌年3月の法人の所得金額が10,000,000円であった場合の法人税額の計算は以下のようになります。
8,000,000(※)×15%+(10,000,000ー8,000,000(※))×23.2%=1,664,000円
(※)8,000,000×12/12=8,000,000円
6,000,000(※)×15%+(10,000,000ー6,000,000(※))×23.2%=1,828,000円
(※)8,000,000×9/12=6,000,000円
おわりに
法人の事業年度が1年未満となる場合の留意点を解説しました。
実際に申告書を作成する際には、ソフト等で自動計算されるかと思いますが、設備投資の計画や税額のシミュレーション等をする際にはご留意下さい。