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適格請求書発行事業者の登録要否:アパートと駐車場の賃貸経営

税金
税金
  • 益税をなくして課税の公平を

というのが目的のひとつでもある適格請求書等保存方式(インボイス制度)。

現在免税事業者で消費税分を受け取っている事業者は、登録をするかどうかお悩みのことと思います。

また、以下のような理由で元々消費税分を受け取っていない事業者もいます。

  • 非課税取引だから
  • 課税取引だけど消費税分を上乗せしていなかった

その中で、適格請求書発行事業者の登録をしないことにした免税事業者の事例をご紹介します。

事例

事例:不動産賃貸業

不動産賃貸業を営むAさんは、アパートと駐車場の賃貸経営をしています。

所有している不動産は以下のとおりで、ここ数年ずっと満室、満車です。

  • 家賃10万円のアパートが30戸
  • 月額1万円の駐車場が20台分

アパートは全て居住用なので、非課税取引です。

駐車場は課税取引ですが、消費税分の上乗せはしていません。

課税売上高は駐車場分の240万円で、免税事業者です。

課税事業者になって適格請求書発行事業者の登録をする必要はあるのかのー?

くま税理士
くま税理士

アパートが本当にすべて居住用なのかどうかと、駐車場を借りているのがどんな方かがポイントですね。

駐車場

くま税理士
くま税理士

駐車場は課税取引なのですが、消費税分は上乗せしていないんですね。

わしは免税事業者で消費税を納めんのじゃから預かれん。

払わんもんを預かったら着服じゃろうに。

くま税理士
くま税理士

おっしゃるとおりなのですが…。

現行では免税事業者も消費税分を上乗せしていいことになっています。

そのため冒頭の「益税」というお話が出てきてしまうんですね。

実は支払いを受ける側が消費税分を上乗せしている(つもり)かどうかに関わらず、課税取引ではその対価に「消費税分が含まれている」ことになります。

課税取引であれば、11,000円でも10,000円でも税込金額として扱われます。

例えば、駐車場代を月額11,000円としていた場合は

  • 税抜金額:10,000円
  • 消費税額:1,000円

ですよね。

一方、駐車場代を月額10,000円としていた場合は、税抜10,000円ではなく

  • 税抜金額:9,091円
  • 消費税額:909円

という取り扱いになります。

Aさんが消費税をもらっていないつもりでも、実際には含まれていることになるんですね。

ということで、これまで免税事業者だからと律儀に消費税を受け取らず、益税の恩恵を受けてこなかった(つもりだった)としても、課税取引があれば、今回のインボイス制度の影響を受ける可能性があります。

ただ、課税取引に該当するからといって即登録が必要だというわけではありません。

くま税理士
くま税理士

駐車場を借りているのはどんな方々ですか?

近くに大きなマンションのある住宅地じゃから、2台目や3台目が自分のマンションの駐車場に停めれん人に貸しとることが多いんじゃ。

くま税理士
くま税理士

それなら私的なご利用の方が多そうですね。

お仕事(事業)のために借りている方はいらっしゃいませんか?

そういえば1台だけあるのぉ。B商店さんの軽トラじゃ。

Aさんの駐車場を借りているのは、適格請求書が必要のない私的な利用の方がほとんどです。

ただし、1件だけ事業で利用している方がいました。

このB商店さんは、本則課税で申告しているのであれば、今は税込10,000円の駐車場代を支払って、909円の仕入税額控除ができる状態です。

Aさん
Aさん

そうじゃったのか…。

くま税理士
くま税理士

Aさんが適格請求書発行事業者の登録をしなかった場合は、B商店さんは仕入税額控除ができなくなります。

ただし、B商店さんが簡易課税制度を選択する場合は影響がありませんし、本則課税の場合でも経過措置があります。

では、もしB商店さん一人のために登録をした場合はどうなるでしょうか。

Aさんがこれまで消費税分を上乗せしていなかった(つもりだった)ことを考慮して、全員の駐車場代を11,000円に増額すると、B商店さんも含めて全員が値上げされることになります。

課税取引ですので、本来は元々支払わなければならなかった消費税です。

契約者全員が

ですよねー。課税取引ですもんねー。

どうして消費税分が上乗せされていないのか不思議だったんですよー。

なんて稀有な方なら良いですが、多くの方は、消費税分だと言われても単なる値上げだと感じるのではないでしょうか。

いずれにしても、B商店さん以外の人は単純に払う金額が増えるだけです。

だからといって10,000円のままにすると、Aさんは、受け取っていなかったつもりの消費税を、預かった消費税として負担することになります。

益税ならぬ損税です。

また、登録すると、Aさんは慣れない消費税の申告が必要になり、事務負担や経費が増え、もちろん消費税の納付もしなければなりません。

登録すると、影響のない人もいますが、損する人が増えるばかりのようです。

一方、登録しないことを選択すると、B商店さん以外の全員が、特に何の影響もなく今までと変わりがありません。

B商店さんも、簡易課税制度であれば影響はありませんし、どうしても適格請求書が必要であれば、駐車場ぐらいなら他にもたくさんあります。

そういえば、ご近所に駐車場を持っとるCさんは、大きな取引先を相手に事業もやっとるからきっと登録するんじゃろうなぁ。

常に2、3台は空けとると言っておったし、B商店さんには、Cさんの駐車場も教えといてやろう。

駐車場の貸付は一定の場合を除いて課税取引です。

詳しくはこちらをご確認下さい。

アパート

居住用アパートの家賃は非課税です。

正式には「住宅の貸付け」という言い方をします。

消費税の非課税取引は13個あって、そのうちのひとつが「住宅の貸付け」です。

この「住宅の貸付け」ですが、最近改正があり、以前は

  • 契約で居住用であることが明らかにされている場合

だけが対象だったのですが、契約で明らかにされていなくても

  • 貸付けの状況からみて居住用であることが明らかな場合

も含まれることになりました。

この「居住用であることが明らかな場合」には

  • 入居者が個人で、居住用に使っていないことを貸主が把握していない場合

も該当します。

居住用のマンションを、大家さんに内緒で事業用に使っている場合のことですね。

大家さんとしては非課税のつもりですので「実は課税でした。」なんてあとから言われたら困ります。

また、借りている側も、事業に使用することを大家さんに知っておいてもらわなければ、居住用として非課税取引になってしまいます。

大家さんが適格請求書発行事業者であるかどうかを確認することも必要ですが、まずは事業用であることをきちんと把握しておいてもらうことが大切です。

もちろん最近は「事務所利用可」の物件もたくさんあり、契約書で明らかになっていたり、大家さんに事前に了解をとっていたりして事業用に使用している場合は、元々課税取引です。

この場合も、適格請求書が発行してもらえるか、事前に確認しておきましょう。

さて、借りる側の話をして脱線しましたが、Aさんの場合はというと

契約者はみんなサラリーマンですべて居住用じゃ。

とのことです。

今のところ、アパートの家賃について適格請求書が必要な方は居ないようですね。

ただ最近は、サラリーマンの副業も流行っています。

副業から本業にしたいと思っている人もいるかもしれません。

いずれにしても、登録の有無と、登録しない場合は本則課税での仕入税額控除ができなくなることぐらいはお知らせしておいた方がいいかもしれませんね。

不動産管理会社がある場合

個人で不動産賃貸業を営んでいる方は、同時に不動産管理会社を経営されている場合も多いです。

  • 不動産所有方式(土地・建物)
  • 不動産所有方式(建物のみ)
  • サブリース方式
  • 管理委託方式

と形態は様々ですが、小規模の会社(現在免税事業者)であれば、こちらの登録有無についても検討が必要です。

Aさんの場合は管理委託方式で、取引相手は主に個人の自分です。

自分が適格請求書が必要かどうかを考えればよいことになりますね。

Aさんは

  • 取引相手が自分だけで自分は登録しない

ということですので、管理会社も登録の必要はないかと思います。

ただし、車庫証明の手数料等、少額でも会社が直接契約者と取引をしているものがあれば、契約者への影響を考えることが必要です。

個人事業の場合と同様に検討しましょう。

将来の話

ということで、適格請求書発行事業者の登録はしないことにしたAさん。

ご年配なので将来のことも考えています。

亡くなった場合は、相続人が不動産賃貸業を承継する予定ですが、相続人はご自身で事業を営んでいるご子息で、適格請求書発行事業者の登録をする予定だそうです。

貸主が変わる場合に、変更前と変更後のいずれか一方だけが適格請求書発行事業者であると状況が変わります。

近い将来でも遠い将来でも、変わる可能性があるのであれば、そのことも周知しておいた方がいいですね。

Aさんとご子息の場合は

  • ご子息が貸主になったときは、駐車場代には消費税分を上乗せする

というのが妥当かなと思います。

駐車場の契約者には「わしが死んだら料金が上がります。」と伝えておくか。

そうしたら「長生きしてくれ。」と思ってもらえるかもしれんのぉ。(笑)

おわりに

不動産賃貸業を営んでいる場合の、適格請求書発行事業者の登録要否について検討しました。

事例では、適格請求書が必要になる可能性のある契約が、少額の物件(駐車場)ひとつだけで、これまで消費税分を上乗せしていなかった(つもりだった)ことも考慮して、しばらくは登録をしないこととしました。

住宅地などで、居住用や私的な利用のための物件を主に扱っている場合は、適格請求書が必要のない契約者が多いかもしれませんが、全員が全員ということは少ない気がします。

また、適格請求書発行事業者の登録をしない場合は、今後消費税分を消費税として受け取ることはできません。

制度の開始当初に登録しないことを選択したとしても、開始するまでや経過措置の間に、契約者の状況や世の中の動向などを確認し、課税事業者となることについて検討を続けることが大切ですね。

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