
役員の賞与を届出どおりに支給できませんでした。
損金不算入になりますか?

原則として全額損金不算入ですが、一部損金に算入できる場合があります。
事前確定届出給与の届出単位とその判定について解説します。
事前確定届出給与
概要
役員に支給する給与のうち、要件を満たすいくつかの給与は、損金の額に算入することができます。
そのうちのひとつが事前確定届出給与です。
事前確定届出給与は、前もって支給時期と支給額を確定させておき、その定めどおりに支給する給与です。
一定の場合を除いて、その支給内容について届出が必要です。
事前の定めどおりに支給すれば、事前確定届出給与に該当し損金の額に算入できますが、支給時期や支給額が異なる場合は、事前確定届出給与に該当せず損金の額に算入できません。
支給時期や支給額を役員自身で決めることができる役員給与について、損金算入時期や金額を自由に変更することができると、租税回避に繋がる恐れがあるため、このような規定があります。
届出単位と判定
事前確定届出給与の届出単位は、職務執行期間です。
例を挙げて確認しましょう。(事業年度は4月1日~翌年3月31日とします。)
職務執行期間:X1年6月26日~X2年6月25日
支給時期:X1年7月10日
支給額:100万円
支給時期:X1年12月10日
支給額:100万円
X1年7月10日:100万円
X1年12月10日:120万円
X1年7月10日分は届出どおりに支給されていますが、X1年12月10日分は支給額が届出と異なります。
この場合には、X1年12月10日の120万円はもちろん、X1年7月10日の100万円も損金不算入となります。

1回目は届出どおりに支給したのに、それもダメなのですね。

はい。職務執行期間を通じて、全ての支給が届出どおりでなければなりません。
事前確定届出給与に該当するかどうかは、職務執行期間をひとつの単位として判定します。
上記のように複数回の支給がある場合、その全ての支給が届出どおりでなければ、事前確定届出給与には該当しないことになります。
判定の単位

一人だけが届出内容と異なる場合、全員分が損金不算入になるのですか?

いいえ。事前確定届出給与に該当するかどうかの判定は、一人分ずつ別々に行います。
事前確定届出給与は、その支給時期や支給額を個々の役員ごとに定めるものです。
届出についても、事前確定届出給与に関する届出書の付表に、各人別に記載します。
複数の役員のうち、届出と異なる支給となった役員の分は損金不算入となりますが、それ以外の、届出どおりに支給した役員の分は、事前確定届出給与に該当し損金の額に算入できます。
届出期限の留意点
事前確定届出給与の届出書の提出期限は、通常の場合、以下のいずれか早い日です。
(※)
この決議は、支給時期と支給額を定めた決議のことです。
決議をした日が、職務執行開始日より後の場合は、職務執行開始日になります。
株主総会では総額だけを決め、個別の支給額は取締役会で決議する、といった場合には、職務執行開始日が先になる場合もあります。
日数を数えるときに注意したいのは
の2点ですね。
期限は通常、何かが起こった日から何日と定められ、その初日は24時間に満たないことが多いです。
株主総会等の決議をした日も、その決議はその日のお昼間にされているはずですから、この日(初日)は24時間ありません。
従って、株主総会等の決議をした日から数える場合は、初日不算入になります。
一方、会計期間開始の日は0時から始まります。
24時間ありますので、初日算入で数えることになります。
「経過する日」は、応当日の前日です。
定期券などの期限を想像するとよいですね。
「経過した日」は「経過する日」の翌日です。
具体的には
だったとすると
となりますので、届出期限は6月28日になります。
一般に法律の世界では、初日不算入が原則だそうです。
法律を広く取り扱う友人は「経過した日」はよく使うそうですが、「経過する日」という表現にはあまり馴染みがないそうです。

基本的に初日不算入だけど、刑事事件の勾留期間の計算だけは初日算入なんだよ。
と、初日算入の珍しい例も教えてくれました。
一方、法人税法や消費税法では「初日算入」や「経過する日」の規定が比較的多いです。
期限のある届出書を、わざわざギリギリに提出する方はあまりいらっしゃらないと思いますので、1日数え間違えても問題がないことがほとんどですが、初日不算入を初日算入と誤った場合は、もう1日猶予があるということです。
通常の場合は時間に余裕がありますが、臨時改定の場合の届出期限は
で、この「事由が生じた日」は初日不算入です。
臨時改定をする程の一大事があったのですから、バタバタしているうちにギリギリになってしまうかもしれません。
そのときは、もしかしたらもう1日猶予があるかもしれませんので、念のため確認してみて下さい。
一部を損金に算入できる場合
事前確定届出給与は、職務執行期間をひとつの単位として、その全てが届出どおりに支給されていなければなりません。
複数回の支給のうち、一度でも事前の届出どおりに支給されなかったものがあるときは、全額が損金不算入となります。
ただし、以下のような場合は例外的な取扱いになります。(事業年度は4月1日~翌年3月31日です。)
職務執行期間:X1年6月26日~X2年6月25日
支給時期:X1年12月10日
支給額:100万円
支給時期:X2年6月10日
支給額:100万円
X1年12月10日:100万円
X2年6月10日:120万円
X1年12月10日分は届出どおりに支給されていますが、X2年6月10日分は支給額が届出と異なります。
X2年6月10日分は、届出どおりに支給されていませんので当然損金不算入です。
増額した場合には増額分だけ、といった取扱いはありませんので、120万円全額が損金不算入となります。
ただし、X1年12月10日分については、損金の額に算入することができます。
厳密には、遡及して修正申告をする必要はない、という判断です。
事業年度と職務執行期間が異なることで、届出どおりに支給しなかったX2年6月10日には、X1年12月10日分の支給を含む直前の事業年度(X1年4月1日~X2年3月31日)は終了しています。
そして、このX2年6月10日分について届出どおりに支給しなかったことは、その直前の事業年度(X1年4月1日~X2年3月31日)の課税所得に影響を与えるものではありません。
このような場合には、届出どおりに支給しなかったX2年6月10日分のみを損金不算入としても差し支えないとされています。
従って
となります。
おわりに
事前確定届出給与を、届出どおりに支給できなかった場合の取扱いについて解説しました。
役員に対する賞与は、会社の業績や資金繰りなどの影響で、予定どおりに支給できないこともあります。
そのときになって慌てないように、事前に取扱いを確認しておきましょう。