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適格請求書等保存方式(インボイス制度)での消費税額の計算方法:積上げ計算と割戻し計算

税金
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適格請求書等保存方式(インボイス制度)での消費税額の計算方法には、預かった消費税(売上)と支払った消費税(仕入)のそれぞれで

  • 割戻し計算
  • 積上げ計算

の2種類があります。

この2種類の違いは、端数処理の関係で以下のようになることです。

  • 割戻し計算 > 積上げ計算

また、消費税の納付額は

消費税の納付額

預かった消費税(売上) - 支払った消費税(仕入) = 納付する消費税

で計算しますので

  • 預かった消費税(売上) → 少ない方が有利
  • 支払った消費税(仕入) → 多い方が有利

です。

上記をふまえて、適格請求書等保存方式(インボイス制度)での消費税額の計算方法とその選択肢について、詳しく解説します。

売上(預かった消費税)の計算方法

割戻し計算(売上:原則)

売上の消費税額の計算方法の原則は、割戻し計算です。

割戻し計算は、税込の合計額を税抜金額に割戻し、その金額に消費税率を乗じて、預かった消費税額を算出する方法です。

このときの税抜金額を「課税標準額」といい、税率ごとに以下のように計算して、それぞれを合計します。

割戻し計算(売上)

(1)標準税率(10%)
税込合計額×100/110=課税標準額(千円未満切捨)
課税標準額×7.8%=消費税額(A)

(2)軽減税率(8%)
税込合計額×100/108=課税標準額(千円未満切捨)
課税標準額×6.24%=消費税額(B)

(3)(A)+(B)=預かった消費税額

消費税の計算ではまず国税分のみを計算しますので、上記のような税率になります。

参考
  • 標準税率10%の内訳(国税7.8%、地方税2.2%)
  • 軽減税率8%の内訳(国税6.24%、地方税1.76%)

積上げ計算(売上:特例)

売上の消費税額の計算では、特例として積上げ計算を選択することもできます。

積上げ計算は、適格請求書に記載した消費税額を合計する方法です。

積上げ計算(売上)

適格請求書に記載した消費税額の合計額×78/100=預かった消費税額

標準税率(10%)でも軽減税率(8%)でも、国税分は78/100になります。

なお、売上で積上げ計算を選択すると、仕入でも積上げ計算しか選択できません。

仕入(支払った消費税)の計算方法

積上げ計算(仕入:原則)

仕入の消費税額の計算方法の原則は、積上げ計算です。

仕入の積上げ計算も、売上と同じく適格請求書に記載された消費税額を合計する方法です。

請求書等積上げ計算(仕入)

適格請求書に記載された消費税額の合計額×78/100=支払った消費税額

上記の方法を「請求書等積上げ計算」といいます。

また、課税仕入れの都度、仮払消費税等を計上した上で合計する「帳簿積上げ計算」も認められています。

帳簿積上げ計算(仕入)

(1)標準税率(10%)
税込合計額×10/110=仮払消費税等(1円未満切捨または四捨五入)(A)

(2)軽減税率(8%)
税込合計額×8/108=仮払消費税等(1円未満切捨または四捨五入)(B)

(3)((A)+(B))×78/100=支払った消費税額

割戻し計算(仕入:特例)

仕入の消費税額の計算では、特例として割戻し計算を選択することもできます。

売上で割戻し計算を選択している場合のみの特例です。

仕入の割戻し計算は、税込の合計額から直接算出します。

税率ごとに以下のように計算して、それぞれを合計します。

割戻し計算(仕入)

(1)標準税率(10%)
税込合計額×7.8/110=消費税額(A)

(2)軽減税率(8%)
税込合計額×6.24/108=消費税額(B)

(3)(A)+(B)=支払った消費税額

計算方法の選択肢

適格請求書等保存方式(インボイス制度)において選択できる組み合わせは以下です。

選択可否売上仕入
〇可割戻し(原則)積上げ(原則)
〇可割戻し(原則)割戻し(特例)
〇可積上げ(特例)積上げ(原則)
×不可積上げ(特例)割戻し(特例)

預かった消費税(売上)は、少ない方が納付税額が小さくなりますので、積上げ計算の方が有利です。

一方、支払った消費税(仕入)は、多い方が納付税額が小さくなりますので、割戻し計算の方が有利です。

いずれも特例の方が有利ですが、特例同士の組み合わせは選択できません。

いいとこどりはできないんですね。

売上:割戻し計算 - 仕入:積上げ計算

売上も仕入も原則を選択すると

  • 売上:割戻し計算(積上げ計算より多くなる)
  • 仕入:積上げ計算(割戻し計算より少なくなる)

という究極の不利選択になります。

わざわざこの組み合わせを選ぶ人はいませんよね。

しかも、仕入での積上げ計算は事務負担が大きいです。

特に、請求書等積上げ計算は、形式等の統一されていない、他者が発行した適格請求書の金額を集計する方法です。

検算もできませんし、取引件数にもよりますが、多くの事業者にとって現状では対応が難しい計算方法です。

帳簿積上げ計算については、経理処理をどのように行っているかで、対応可否が分かれるところです。

取引先からの適格請求書の受け取り方にも左右されますし、相手があることですので、要件を満たした処理を継続できるか、十分な検討が必要です。

売上:割戻し計算 - 仕入:割戻し計算

ほとんどの事業者にとって、従来通りの計算方法です。

税込の合計額さえわかればいいので、らくちんですね。

適格請求書発行事業者の確認等、少し手間は増えますが、経理処理を変更する必要もありませんし、無難な選択です。

ただし、売上の、割戻し計算での消費税額と積上げ計算での消費税額に大きな乖離があるようであれば、積上げ計算を検討した方が良いかもしれません。

売上:積上げ計算 - 仕入:積上げ計算

「インボイス制度」ですので、本来はこの組み合わせが真っ当です。

損得なく、正確な税額を算出することができます。

仕入で積上げ計算を選択することについては、上述のとおり事務負担が大きいです。

一方、売上については、自社で発行する適格請求書ですから、システムの対応状況等によっては、消費税額のみを集計するのは案外容易です。

繰り返しになりますが、売上の、割戻し計算での消費税額と積上げ計算での消費税額に大きな乖離があるようであれば、積上げ計算の選択を検討した方が良いです。

ただし、仕入でも積上げ計算をすることが条件です。

売上で積上げ計算を選択した場合は、仕入で割戻し計算は選択できません。

つまり、この組み合わせが選択できるかどうかは、仕入の積上げ計算への対応次第ということになります。

帳簿積上げ計算であれば、現状の経理処理を大きく変更することなく対応可能な場合もありますので、なるべく負担が少ない方法を検討してみると良いですね。

おわりに

適格請求書等保存方式(インボイス制度)での消費税額の計算方法とその選択肢について解説しました。

日本では、消費税額の計算は、従前から割戻し計算が主流です。

適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されても、売上の原則は割戻し計算ですし、仕入についても、原則は積上げ計算としつつ、特例として割戻し計算を選択することもできます。

現状では、結局従前と同じく、売上仕入ともに割戻し計算を選択する事業者がほとんどなのではないかと思います。

割戻し計算は

インボイス命!

という国の方にはなかなか理解してもらえないこともありますが、積上げ計算の事務負担を考えると

割戻し計算があって助かった。

と思うこともあります。

国単位で、適格請求書の消費税額を集計するような、公的なシステムができるといいですね。

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