消費税の軽減税率制度が始まりましたね。でも、今回の改正はこれだけではありません。
2019年10月1日から区分記載請求書等保存方式が導入され、2023年10月1日からは、適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度に移行します。
免税事業者の方は、お悩みではないでしょうか。
制度の詳細とともに
などについてみていきましょう。
インボイス制度と適格請求書発行事業者
インボイス制度が導入されると、適格請求書発行事業者が発行した適格請求書(インボイス)がなければ、仕入税額控除ができません。
そして、この適格請求書発行事業者には課税事業者でなければ登録できず、免税事業者は適格請求書を交付できません。
したがって、免税事業者の取引先(売上先)は、免税事業者との取引について仕入税額控除ができないことになります。
消費税のしくみについて詳しく知りたい方は、こちらの記事の「消費税のしくみ:国内売上の場合」をご参照ください。
ただし、免税事業者も課税事業者を選択することで、適格請求書発行事業者として登録し、適格請求書を交付することができるようになります。
つまり、課税事業者を選択するかどうか(=適格請求書発行事業者の登録をするかどうか)は、取引先(売上先)が仕入税額控除を必要とするかどうかがポイントとなります。
課税事業者となるべきか!?
では、業態別に例を挙げて詳しくみていきましょう。
個人向けのサービスをしている場合
ご自宅等で趣味をかねた小規模な教室やサロンなどされている方は、免税事業者であることが多いかもしれません。
各種教室(学習塾、音楽教室、語学教室等)やサロン、ジムなど、個人向けの事業をされている場合を検討してみましょう。
まず、対象がお子様向けの習い事や学習塾などである場合には、月謝を支払う親御さんに適格請求書は必要ありません。
また、趣味や教養のための教室や講座、私的な利用の美容院やネイルサロンなども、お客様は適格請求書を必要としません。
お客さんが、仕事のためにサービスを受けているのではない場合には、適格請求書は不要です。
注意して頂きたいのが、法人相手に出張講座をしていたり、個人でも課税事業者である個人事業主が事業のために利用している場合などです。
たとえば、音楽教室をされている方であれば、自宅で少人数を教える傍ら、イベント会場や船上などで演奏することもあるかもしれません。
このように、お客さんが仕事のために料金を支払っている場合には、適格請求書が必要です。
ただし、仕事のためであっても、お客さんが免税事業者であれば必要ありません。
まとめるとこんな感じです。
ちなみに、適格請求書が必要な相手がいるからといって、必ずしも課税事業者を選択し適格請求書発行事業者として登録しなければならない、というわけではありません。
売上の割合や、お客さんとの関係、事業内容などによっては交渉をしてみてもよいと思います。
たとえば
自宅で主婦業の傍ら語学教室を開いています。受講者は、趣味や教養のための個人の方ですが、1社だけ語学研修を請け負っている会社があります。マイナーな外国語であるため他に頼める人がいないとのことで、年に1度だけ出張研修をしています。
この方は、売上高は毎年数百万円程度で、事業開始以来ずっと免税事業者です。
企業研修などするつもりもなかったのですが、同じく外国通で古くからの知人である社長に、どうしてもと頼まれて引き受けています。
そういうことなら
わたし免税事業者なんですけど、社長のところが仕入税額控除ができなくなったら困りますか?うぅぅ…。
いいよいいよー。年に1回だししれてるよ。
君しか頼める人はいないし、気にしないでー。
なんだー。聞いてみてよかった。悩んで損した。
なんてこともあるかもしれません。
お客さんとの関係や競合他社の有無などにもよりますが、相談や交渉をしてみてもいいかもしれませんね。
この方の場合は「ほかに頼める人がいない」というところが強みでもありました。
飲食店や喫茶店の場合
小規模な店舗を経営をされている方は、免税事業者である場合もあるかと思います。
飲食店や喫茶店は、一般的に個人がお客様ですので、適格請求書は必要ないのでは?と思われがちですが、課税事業者になった方がいいのでは、と思われる業種の筆頭だといえます。
理由は「接待交際費」です。
法人でも個人事業主でも、接待交際費の多くは、飲食店や喫茶店での飲食費ではないでしょうか。
その接待交際費について仕入税額控除ができないとなると結構問題になります。
税額の多寡だけでなく、仕入税額控除の可否でお店を分類しなければならなくなるという経理処理の手間も発生します。
もしかしたら、経営陣から「接待に免税事業者のお店は使わないように」とお達しが出る会社もあるかもしれませんし、飲食店や喫茶店は競合他社が多数ありますので、免税事業者のままでいると、締め出しに合ってしまうかもしれません。
また、決まった会社への売上で支えられている店舗もあるかと思います。
ビルの1階で喫茶店を経営していて、同じビルの会社の来客時に使ってもらっている、会社の忘年会や新年会にいつも使ってもらっているなど。
こういった、一社との取引金額が売上の大半を占めるのであれば「免税事業者だから」という理由で来店や利用を中止されては死活問題です。
もしかしたら、取引先の企業から課税事業者となることを促されるかもしれません。
ちなみに取引先も免税事業者ならセーフです。
小売店の場合
小規模な小売店を経営をされている方は、免税事業者である場合もあるかと思います。
小売店は一般消費者が対象ですので、適格請求書は必要ないのでは?と思うかもしれませんが、商品によっては課税事業者になった方がよい場合がありそうな業種だといえます。
事業の経費として計上しているものを思い出してみて下さい。
例えば「消耗品」には、文房具や各種オフィス用品が多数計上されますよね。パソコンや周辺機器も、安いものなら通常は消耗品です。
経費のうち比較的割合の多い「消耗品」。これについて仕入税額控除ができないとなると、購入した企業や個人事業主の方にとっては大問題です。
あの店で買うと仕入税額控除ができないからと、客足が遠ざかっては一大事。
ご自身の販売されている主要商品が、企業や個人事業主の方にとって経費になるものである場合には、課税事業者の検討をされた方がいいかもしれません。
文房具かー。小学校の近くに学校指定の体操服とかを売っている小さな文房具屋さんがあるんだけど、あそこはどうなんだろう?
素晴らしい目のつけどころです。こちらは、商品ではなくお客さんがどんな方かがポイントですね。
近隣の学校指定の体操服や学習用品を扱う小さな文房具店。主要なお客様は、小学生や中学生とその親御さんではないでしょうか。
この方々は適格請求書は絶対必要ありませんよね。学習塾やお子様向けの習い事なんかと同じです。
割合にもよりますが、お子様向けの学習用品などを扱う小売店の場合は、免税事業者のままでも問題のない場合もありそうです。
ちなみに、お子様向けの商品について、適格請求書が必要になりそうな場合として
などがあります。
最近は、運動会に備えて、かけっこだけを教える塾なども流行っているようです。
学校指定の運動靴などがあれば、研究のために購入する講師の先生もいるかもしれませんね。
近隣のお店が免税事業者で、同じものが大手スポーツ店でも売っていれば、当然そちらで買われてしまうでしょう。
ただ、適格請求書を必要とする可能性があるお客様がごくわずかな場合には、無理をしてまで課税事業者となる必要はないかと思います。
既存のお客様の、分類や用途の割合をしっかり分析して、最良の方法を選んでください。
ちなみに、免税事業者であっても「うちでしか取り扱っていない」なんて商品があれば、お客様にとっては「しかたなく」ということになりますが、あなたのお店を選んでもらえます。
パン屋さんの場合:複数の業態が混在している場合
はい、また出ました。パン屋さんのえこひいき。
ちがうんですよー。パン屋さんは特殊なんですよ。
パン屋さん「だけ」が特殊、というと語弊がありますが、小売り・卸売り・喫茶店など、複数の業態が混在している事業の場合のお話です。
パン屋さんは、この代表格なんです。
まずパン屋さんは小売店ですよね。お店で一般の方に焼き立てのパンを売っています。
一方でイートインを併設している場合があります。こちらは飲食店や喫茶店になりますね。
そして卸売り。レストランなどの飲食店に、食材としてパンを卸していることもあります。
さて、ではどのような基準で、課税事業者となるべきかどうかを決めればよいのでしょうか。
まずは、それぞれの事業の割合を確認しましょう。現状の売上はもちろんですが、今後拡大したい分野や、ご自身が大切にしている対象者(お客様)についても考えておけるといいですね。
うちの店は小売りのみ。イートインも卸売りもしない。なんて場合には、すでにお話しした小売店の場合を参考にしていただけばいいのですが、なんといっても商品が食べ物です。
経費とするのはなかなか難しく、小売り分について仕入税額控除を求めるお客様はあまりいないかと思います。
それよりも、お客様のほとんどを占める、あなたのパンが食べたくて通ってくれる一般の方のことを考えたらいいですよね。
自分や家族が食べるために買う人は、適格請求書なんて必要ありません。
一方、イートインが売上の大半を支えているなんて場合には、課税事業者となることを検討された方がいいかもしれません。
飲食店や喫茶店の場合でご紹介したとおり、接待交際費としたいお客様がたくさんいらっしゃるようであれば、考える必要があります。
最後に卸売りですが、こちらは売上先とのコミュニケーションが重要です。
大きなホテルのレストランなどと取引があれば、こちらはもともと課税事業者でしょうし、小さなレストランなどの免税事業者の場合には、売上先も課税事業者となるかどうかを検討中かもしれません。
飲食店だと課税事業者となることを選ばれる可能性もありますよね。
また、商品にもよりますが、卸売りが連鎖すると、売上先もその売上先の動向による、というように芋づる式となる場合があります。
売上先も小規模な免税事業者だから、と安心していては危険です。「あなたのところはどうするの?」と早めに聞いておくといいですね。
自分は免税事業者のままでいるつもりだったけど、売上先が課税事業者となることを検討している、という場合には、自分からの仕入れが仕入税額控除ができなくても構わないのか、今後の取引になにか影響があるのかなど、よく話し合って交渉してください。
コラム:神戸ノート
近隣の学校指定の用品を取り扱っている小さな小売店。
私の家の近くにもあり、小学生の頃はしばしば通いました。
当時よく買っていたのが、授業で使うノート。神戸市民御用達の神戸ノートです。
学校指定だと思っていたのですが、どうやら違うようです。
それどころか、当時小学生だったわたしは、全国的に公立の小学生はみんなこのノートを使っていると思っていました。表紙が神戸の景色のデザインなのに(笑)
なので、転校生がジャポニカ学習帳をもっているのを見かけたときに
「私学からきたのかなー?お父さんの会社が倒産して公立に転校してきたのかなー?」
と、心を痛めた記憶があります(笑)
神戸ノートの大半は「1・2年用」「3・4年用」「5・6年用」に分かれていて、わたしの小学生当時は、「1・2年用」と「3・4年用」はすべてB5判、「5・6年用」にはA5判のものがあり、4年生の頃には「小さい方のノート」に憧れました。
6年生しか使わない「ローマ字練習帳」も魅力的でした。
今はどちらもなくなってしまったようですが…。
たしかに、いざ5年生になって嬉しがってA5判を使うのですが、小さくて狭くて使いにくかった記憶があります。
逆に、わざとB5判を使っている友達がおしゃれに見えたりして、大きい方がほしくなったりしました。
A5判の「二百字帳」なんて地獄です(笑)
枠が小さくて書きにくいし、なかなか1ページが終わらないので、嫌いになってしまいました。
漢字の練習には絶対B5判の「百字帳」がいいですね。
そして、みんながこのノートを使っていたのではなかったことを知るのは、それから何十年も経ってから。
お隣の西宮市出身の人と、ジャポニカ学習帳について話したときに発覚しました。
これめっちゃCMしとったけど使ったことないやろ?憧れとってんー。
えっ?おれ使ってたで。
えっ?どういうこと?私学ちゃうやろ?学校で決められたノートがあったやん!
神戸市が特殊だったんですね。しかも指定じゃなかったという大どんでん返し。
子どもの頃に普通だと思っていたことが、実は珍しいことだったというのは、よくあることかもしれませんね。
ちなみに社会科の教科書は「わたしたちの神戸市」。
もちろん全国各地でみんなが「わたしたちの〇〇市」という教科書を使っていると思っていました。
かなり自己中で世界の狭い小学生だったのでした(笑)
選んだあとの注意点
課税事業者となるか、免税事業者のままでいるか、選ぶことができたでしょうか。
選択後の注意点についても確認しておきましょう。
課税事業者となることを選んだ場合
免税事業者の方が課税事業者となる場合に、もっとも頭を悩ませるのが
消費税の申告と納税をしないといけなくなるじゃん!
ですね。
申告のためには、日々の経理が重要ですし、請求書などの書類もきちんと保存しておかなければなりません。
また、きちんと経理をしておけば、おおよその納税額も把握できますので、納税資金の確保などの資金繰りについても計画がたてやすくなります。
所得税においては、数年前から白色申告の個人事業主でも記帳が必要ですし、最近は無料や安価な会計ソフトもたくさんあります。
日頃の会計処理を見直す良い機会となるかもしれませんし、面倒だとは思いますが、一念発起して事務作業を見直してみましょう。
次に忘れてはならないのが、届け出です。
免税事業者の方が課税事業者となる場合、そして、そもそもの目的である適格請求書発行事業者の登録をする場合には、届け出が必要です。
届出書を提出するだけじゃないの?
はい。届け出自体は簡単です。ただし時期に注意が必要です。
適格請求書発行事業者の登録申請は、2021年10月1日から受付が開始される予定です。インボイス制度の開始である2023年10月1日時点から登録者となるためには、2023年3月31日までに申請しなければなりません。
一方、免税事業者は、課税事業者の選択をしなければ適格請求書発行事業者の登録申請ができません。
課税事業者の選択は課税期間ごとで、その届出書(課税事業者選択届出書)の提出期限は、課税事業者となりたい期間の前日までですよね。
課税期間が10月1日始まりならいいですが、フライングしてしまうと余分な期間ができてしまいます。
ということで、免税事業者向けに、2023年10月1日を含む課税期間中に登録を受けた場合には、2023年10月1日から課税事業者となる、という経過措置があります。
この場合には、課税事業者選択届出書の提出は不要となります。
まちがっても、2023年10月1日を含む課税期間の前日までに届出書を提出してしまったりしないでくださいね。
2023年9月30日以前に課税事業者となっておく必要はありません。
ちなみに、始まってすぐではなく翌期からでいいというような場合には、翌期開始の1か月前までに登録申請をします。
そしてこの場合は、課税事業者選択届出書の提出が必要で、こちらは従来通り、提出期限は翌期開始の前日です。
最後にもうひとつ忘れてはならないのが、自分の仕入先の確認です。
売上先のために、清水の舞台から飛び降りる決意で課税事業者となったのに、そんなこととは知らない仕入先が免税事業者のままで、自分は仕入税額控除ができない、なんてことがあとからわかっては大変です。
卸売りの場合のところでもお話ししましたが、取引先にもそれぞれの取引先があり、どんな理由で課税事業者か免税事業者かを選ぶことになるかわかりません。
自分がどうするつもりなのかを早めに伝えておくとともに、取引先の動向や希望も確認しておきましょう。
課税事業者となることを選択した場合には、免税事業者の仕入先にとっては悩ましい相手に変身することにもなります。
ご自身のことをいちばんに考えて頂ければよいですが、みんなが良くなる方法がないか、少しでも話し合えるといいですね。
免税事業者のままでいることを選んだ場合
インボイス制度が導入されると免税事業者との取引について仕入税額控除ができなくなる、と書きましたが、正確には、インボイス制度が導入される2023年10月からすぐに全額が控除できなくなるわけではありません。
経過措置があり、実際には徐々に減額されていくことになっています。
免税事業者が、締め出しにあったり、課税事業者となることを強制されたりすることなどから救済するためです。
スケジュールは以下のようになっています。
- 2023年10月1日~2026年9月30日
仕入税額控除相当額の80%
- 2026年10月1日~2029年9月30日
仕入税額控除相当額の50%
- 2029年10月1~
仕入税額控除不可
このように3年ごとに減額されていき、当初の3年は80%が仕入税額控除可能です。
自分が課税事業者で取引先もほとんどが課税事業者である方にとっては、あまり関係のない措置ですので、案外知らない可能性があります。
インボイス制度が始まったからといって、すぐに「うちは免税事業者だから!」と突っぱねずに、売上先との交渉や来客減少の防止にぜひご活用ください。
特に、開業まもない場合などで、数年後には課税事業者となる予定である方でしたら、「最初の3年は80%ですが、そのあとは課税事業者になる予定ですので…」といった交渉方法もありですね。
まとめ
2023年10月から始まるインボイス制度を前に、免税事業者のお悩みについてお話ししてきました。課税事業者となるかどうかは、本当に悩ましい選択ですよね。
これまでは、益税などと言われつつ免除されていた消費税。日本の免税事業者の規定は、小規模事業者の支援や事務負担の軽減が目的でした。
消費税は間接税ですので、本来はゆがんだ制度ですよね。預かったはずの消費税を払わなくていいんですから。
諸外国にはインボイス制度を採用している国がたくさんあります。日本もみんなと同じになっただけ、と腹をくくって、最良の選択をしてください。
特に、主要な取引先の動向次第という方は、早めに相談や話し合いをして、準備万端でインボイス制度をむかえましょう。