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ローマ字の不思議:疑惑の「はひふへほ」と大失敗の「らりるれろ」

雑記
雑記

ドイツで暮らしていたときに、日本語を学んでいるルーマニア人と言語交換をしていました。

母語(または得意な言語)同士を教え合いっこするという例のやつです。

彼女は、母語はルーマニア語ですが、ドイツの大学を卒業しドイツで働いているので、もちろんドイツ語は堪能。ほかにも、ロシア語、フランス語なども話せるマルチンガルです。

そんな彼女とのやりとりで話題になったローマ字(ヘボン式)の話です。

ヘボン式のローマ字表は、その名のとおり、昔々イギリス人のヘボンさんが、実際に日本語を聞いて作ったものだそうです。

通常のアルファベットや単語は全角の鍵括弧(「」)で、発音記号は半角の角括弧( [ ] )で記載しています。

疑惑の「はひふへほ」

「ふ」の不満

ある日、日本語学習中の彼女から「ふ」の発音についてたずねられました。

「FU」なの!?「HU」なの!?

外国人が日本語を学ぶとき、ローマ字表を使うことがあるそうで、授業ではヘボン式で

  • 「ふ」は「FU」

と教えられたそうです。

でもどうやら納得がいかない様子の彼女。

[ f ] の発音じゃない気がするんだよね…。

でも [ h ] ではないんだよね?

えーっと…うーん…

「ふ」…

「ふ・ふ・ふ」「ふふふ」…

何度か「ふ」を言ってみると、 [ f ] じゃない気がしてきました。

でも [ h ] も違う気がします。

でも、わたし名字に「ふ」が入ってるよ!

パスポートは「F」だよ。

そうだよね…。

このあと、自分の名字を連呼することに…。

実は日本語の「ふ」の発音記号は

  • [ ɸ ɯ ]

「う」も [ u ] じゃないじゃん!

という話はかなりややこしくなるので見なかったことにして、問題は [ ɸ ] です。

[ f ] じゃないんですね。

[ f ] と [ ɸ ] は、どちらも

  • 無声摩擦音

  • 下唇

との間に隙間を作るのですが、唯一違うのが、その隙間を作る相手が

  • [ f ] ・・・上の歯
  • [ ɸ ] ・・・上の唇

だということだそうです。

細かすぎる…

そして、なんと [ ɸ ] は英語には無い音なんだそうです。

それでヘボンさんは、「は行」の他の音とは違っていて、[ f ] だと思った(聞き取った)んですね。

ヘボンさんが気づかなかった違いに彼女は気づいたんですね。

ルーマニア語や、彼女が話せるほかの言語に [ ɸ ] の音があるのかわかりませんが、さすが語学ヲタクです。(笑)

また、よく外国語をカタカナで書くことについて、実際に無い音を無理やりカタカナにするのはよくないと言われますが、この「ふ」については、その反対のことが起こっていたということです。

英語(アルファベット)に無い音なのに、無理やり当てはめたからおかしくなってしまったんですね。

日本語は母音が少なくて「日本語に無い音だから」と外国語の習得に苦労することが多いですが、日本語にあって、外国語に無い音もあります。

有名なのはオリンピックの表彰式での

  • 「たむら~ り~よ~こぉぉ~」

ですね。

「りゃ・りゅ・りょ」の発音が苦手な国は結構あるようで、「りょうさん」や「りょうこさん」は正しく呼んでもらえないことがよくあるのではないでしょうか。

日本語の発音だって難しいです。

日本語を学習している人に「ふ」について質問されたら

実は変な発音記号のちょっと違う音でね…

と説明してあげられたら楽しいですね。

「ひ」の秘密

「はひふへほ」のローマ字「HA・HI・FU・HE・HO」。

「ふ」だけが特別のようですが、実は「ひ」にも秘密がありました。

ドイツで発音のクラスに通っていたときのこと。

ドイツ語の「わたしは」は「ich」です。

無理やりカタカナで書くと「イヒ」です。(旭化成ではありません。笑)

この「ich」が上手に言えないというクラスメイトがたくさんいました。

先生(ドイツ人)も

そうだよねー。わかるわかる。

と、難しい発音のひとつであるような話しぶりです。

クラスには、ホームステイをしていて夜は静かにしないといけないので、布団をかぶって毎日練習しているという人もいました。

たしかに、「イシュ」や「イハッ」といった感じの発音を聞くことがたまにありましたが、方言でこういう発音をすることもあるそうなので、あまり気にしていませんでした。

苦手だと言う半数以上のクラスメイトが、なんども「ich」と言うのを聞きながら話をしている先生。

ふとこちらを向いて

あなた言ってみて。

えっ?「ich」…?

あら!あなた言えるのね!

どうやら日本人にとっては難しくない発音だったようです。

発音記号は [ ç ] 。

これは日本語の「ひ」( [ ç i ] )と同じものです。

「ひ」も [ h i ] じゃなくて [ ç i ] だったんだね。

「はひふへほ」のうち、2つが仲間外れという衝撃の事実。

Wikipediaでは「ふぁ行」や「ひゃ行」という表現も見かけました。

もう「は行」は、「や行(やゆよ)」のように3つ(はへほ)にしてしまって

  • ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ の行
  • ひゃ・ひ・ひゅ・(ひぇ)・ひょ の行

とすればいいのでしょうか。

でも「ふぁ行」は「F」でいいけど、「ひゃ行」は結局「H」しかなくない?

たしかに…。

やっぱり日本語すべてを無理やりアルファベットにあてはめるのは難しいですね。

大失敗の「らりるれろ」

さて、言語交換の続きです。

今度はわたしの番。

長年の疑問といいますか、「納得していないローマ字ランキング」不動の1位「らりるれろ」問題です。

絶対「R」じゃないよね!

どうしてもどれか選ばなきゃいけないんなら「L」だったよね!

「R」は絶対違うよね!!

どうしても納得できず、一度外国人に、「本当に「R」に聞こえるのか?」「「L」に聞こえないか?」と質問してみたいと思っていました。

ということで、世紀の大チャンス到来です。

日本語学習中でマルチンガル(≒語学ヲタク)の彼女は、まさに適任。最高の回答者です。

彼女に

今から日本語を言うから、なんて聞こえたかアルファベットで書いてみて!

と頼み、ワクワクしながら「ら・り・る・れ・ろ」と言ってみました。

結果は

  • 「る」以外は迷うことなく「L」

「る」だけ少し迷うけど、やっぱり「L」かなー。

とのことでした。

やっぱりねー。

念願の夢が叶いました。(なにも解決していませんが…。)

ヘボンさんはどうして「R」に聞こえちゃったのかな…。

きっと「かおりさん」も「さおりさん」も「り」は「L」がよかったんじゃないかなーと思います。

もう慣れてしまっていると思いますが、名前を呼ばれたとき、なんだか少しひっかかりますよね。(笑)

おわりに

語学を愛する人からは、話す相手の文化や慣習などにも興味を持ち、理解してわかり合おうとする気持ちがひしひしと伝わってきます。

また、日本語の特異性により、日本人(日本語を母語とする人)にとって、英語やヨーロッパ諸語などの外国語を習得することが、他の主要な言語を母語とする人よりも大変であることもよく知っています。

逆を言えば、日本語を学習する外国人は、最難関の言語に挑んでいることになります。

かなりの語学ヲタクである確率が高いですね。(笑)

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